Present

□秘めた思いは
3ページ/7ページ


バイオリンの音色が店に響く。


それまで聞こえていたレコードの音はなくなっていた。

おしゃべりに夢中だった奴等も静かに目を閉じ聞いていた。

ナナシチャンの出す音色はとても落ち着ける柔らかなものだった。


「綺麗な音だろう?」


俺に声をかけたのはマスターだった。


「あんたは初めてのお客さんだったね」

「あぁ」

「だったら運がいいよ。ナナシチャンちゃんの演奏はあまり聞けないからね」

「あれ、魔法だろ?どっかのギルドに入ってるのか?」

「いやギルドには入ってないよ。本人が嫌がったんだ」


俺がなんでか聞くとマスターは少し悲しそうな目になった。


「ナナシチャンちゃんは捨てられてたんだよ」


俺は驚いた。

あんな明るい奴が捨てられた奴なんて。

マスターの話では店の前に捨てられていたのを拾ったらしい。

ナナシチャンは恩返しがしたいとこの店に残った。

魔法が使えると発覚し、それからは店でリクエストがあると演奏することにしたらしい。

常連しか知らないので俺は今回運が良かった。




それから俺はこの店の常連になった。


「よう」

『あっ、グレイ!今日も来たんだ!』

「いつもの頼むぜ」

『うん!』


その甲斐あってナナシチャンは俺の顔と名前を覚えて普通に話せるようになった。


『じゃあグレイは私と同い年なんだ』

「マジ!?全然見えねぇ。15かと思ったぜ」

『・・・・それは褒めてんの?貶してんの?』

「さぁな」

『ちょっとグレイ?』

「ハハハハ。なぁ、なんか弾いてくれよ」

『うん。いいよ』


俺がナナシチャンに頼むと必ず同じ曲を弾く。

バイオリンでもピアノでもフルートでもだ。

その方面に疎い俺はその曲に秘められた思いに気がつかなかった。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ