「ツバサ遅いぞ」
「グレイが走るの速いのー!あっ、コケ…」
小石に躓き、次に待つ来る筈の痛みに覚悟して両目をギュッと瞑った
ボスッと音を立て僅かな衝撃を受けて、思っていた痛みが来ない事に恐る恐る目を開けた
「ったく、何やってんだよ?」
痛くなかったのは庇ってくれたグレイの上に倒れ込んでいたから
背中を泥だらけにしたグレイが下敷きになってくれたから
エヘヘと笑みを浮かべて起き上がる私に拍子抜けしたグレイは、笑ってんじゃねぇッ!と一言零し、ツバサのほっぺたを摘まんだ
「鈍臭いんだから、ホラよ」
「うんっ!」
転ばないように、ちゃんと追い付けるように
右手を差し出したグレイの手に自分の手を絡めた
家に帰ったら二人でお説教を受けるんだ
服をドロドロに汚した挙げ句、二人でイタズラして逃げたから
それでも最後は、本当に元気な子達ねっと笑顔で抱き締めてくれる
そんな優しいママとパパが大好きだった。
一つ記憶を取り戻すとまた一つ一つ、と記憶が蘇って来る
グレイは今も昔も何も変わってないね
変な脱ぎ癖がついてるけど
…また会えて良かった
「思い出したんだ、ツバサちゃん」
「思い出したよ……アオくん」
暗闇の中からゆっくりと此方に向かって来る足音
姿は見えないが、アオイの声で位置が何となく分かった
「嬉しいな、またツバサがアオくんって呼んでくれて」
「黙れよアオイ」
「残念。ツバサくんに戻っちゃった」
思い出した事を証明出来るのは、昔私だけが‘アオくん’とあの頃の様に呼ぶ事で伝わると思った
でも今はそんな昔話に浸っている場合ではない
直ぐに今の私、男の俺に戻る
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