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□寒さ凌ぎ隊!
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「ここは北極か!?」

「大袈裟だろ」


リビングのソファーにて。
身体を包む様に自分で自分を抱き締めるツバサは、寒さに身を縮める
先程から寒い寒いと嘆く隣に座るツバサにグレイは眉を垂れ下げる
悲惨な事に、現在グレイとツバサの住む家の暖房は故障中。
修理には数日掛かるとの事で暖房無し生活一日目にしてツバサは寒さに参っていた


「グレイ助けてー!このままだと俺カチカチの氷付けになっちゃうぞ」

「ならねぇよ」

「か弱い女の子が寒さで死にそうなんだぞ?手を差し伸べるのが男の義務でしょ」

「ツバサ君は男だろ?」

「グレイのイジワルー!」


家ではお馴染みになったツバサの性別乱用。
寒い寒いと喚くツバサにグレイはどうしたもんかと考える

確かに寒いかもしれないが、雪山で修行をしていたグレイにとっては何て事無い
普通に服を着ていれば問題無いのだ


「そうだ!ナツに暖めてもらお」

「丸焦げにでもなる気かよ?」

「それは嫌…じゃ、ナツの体温はきっと高いに違いないから暖房直るまでナツを常にギューッてしとく!」

「………ルーシィが黙っちゃいねえんじゃね?」


ツバサの問題発言に眉を吊り上げる
更に素直じゃないグレイは、自分だって黙っていないくせにそこはルーシィを出してみたり

取り敢えずツバサにとっては寒くなければ何でもいい発言だった


「でも今から外に出る元気は無いし、寒すぎて」

「俺が氷の塊でも背中に入れてやろうか?」


グレイはニヤニヤと両手を合わせて目の前でそれをチラつかせる
どうしてそうなる?


「そんなに俺のカチカチ氷の姿が見たいのか…」

「寒いんだろ?なら、もっと寒くしてマヒさせるとか」

「もっと暖かくなるような案出せよ!」

「んなこと言われてもな、取り敢えず毛布でも被っとけよ」


軽いジョークのつもりだったグレイは、本気で発狂するツバサをからかうのは止めて部屋から毛布を持ってきてツバサに掛けてやった
受け取った毛布を頭からすっぽりと被り顔だけを出すツバサは、未だにプルプルと震え中。


「このままだとプルーになる…」

「上手いこと言ったな」

「そうか、プルーは寒いからいつも震えてたんだ!」

「それは違うんじゃ…」

「今度見掛けたら毛布をかけてあげよ!同じプルプル仲間として」


このままだとツバサは本気で精霊プルーの様になってしまう…
外には雪もちらつく中、流石に暖房無しはキツいかと今更ながらにグレイは思った


「なんだよ?」

「密かな温もりを分けて貰おうと身を寄せてます」


暖かくなる様に次なる手を考えていると隣にぴったりとくっつくツバサの姿
隣に居るだけなので、本当に密かな温もり
と言うか最早あまり無意味な行動だったり


「…グレイはやっぱりバカだと思うよ」

「オイ、やっぱりって失礼にも程があんぞ」

「こんな寒いのに服を脱げるグレイはやっぱりバカなんだよ」

「…あぁッ!?俺の服…!」


いつの間にか上半身裸のグレイにツバサは冷めた目を向けた
前方に置き去りにされた服を回収し着る。
お決まり過ぎてバカと言う言葉しか出て来ない


「もーやーだー!寒いのやーだー」


隣にピタリと張り付く縮こまったツバサに目をやれば歯をガチガチとさせていた
暫くそうしていたツバサは急にガバッと視線をグレイにやった


「アレがいい!アレやって〜」

「いや、全然分かんねえよ」


突然何かと思えばアレとか言い出す。
しかも目をキラキラさせて


「ほら〜子供の時によくやったアレじゃないか」

「スマン、さっぱりだ」

「記憶力無さ過ぎー!いいよ、勝手にやるから」


いやいや…
最近まで記憶無くしてた奴に言われたくねえよ
何て事は言える筈も無くグレイは心の中に留めておく

そもそも、アレで分かる訳がない。
逆に分かる方が凄い
子供の時にやった‘アレ’を考えるも、やっぱりアレと言われても分からない
グレイが必死に子供の時の記憶を掘り出している中、ツバサはソファーから立ち上がり自分で被っていた毛布をグレイに掛けた


「ちょっとごめんよ〜」

「何やってんだよ?」


両膝を掴まれ、強制的に足を開かされる
何をやってんだと突如始まったツバサの行動に目を丸くする


「ハイハイ、お邪魔しまーす」

「……何やってんだよ…?」


広げられた両膝の真ん中に出来たスペース。
そこにちょこんと座りだしたツバサにグレイは硬直した
ツバサが何か喋っているが、最早耳にまで届かない
せっせと俺の肩に掛かった毛布の両端を取り真ん中に向かって引っ張り出す
背中を預けてくつろぎモードにすっかり入ったツバサ

そうすれば、すっぽりと二人で毛布を被る図の完成


「グレイ早くって!」

「…いや、状況についていけねえ」

「だから子供の時にやっただろって!」


アレってアレか…
後ろをグリンと振り返って早くと促すツバサに、グレイはアレの正体がココに来てやっと分かった

子供の頃、寒い冬の話。
今と同じ様に身体を小さくして震えていたツバサをグレイは後ろから抱き締める様な形で寒さを二人で凌いでいた事を思い出した
それを気に入ったツバサは、テレビを見る時は必ずと言って言い程にグレイが座っているとその間に座っていた
取り敢えずグレイが座って居れば自分の特等席の様に間に収まっていたツバサ

可愛い幼少期の思い出。

って事はだ。
冷静に考えて、‘早く’は‘抱き締めろ’って事かよ…


「本気で言ってんのか…?」

「本気以外に何があるんだ?」


聞いた俺がバカだった
ツバサはこう言う奴じゃねえか…


「一応聞くけどよ、お前には警戒心ってモンがねえのかよ?」

「グレイに警戒してどうすんの?もう性別もバレてんだし警戒する事なんてないでしょ〜!何よりグレイだぞ?」


満面の笑みでのツバサの返答に溜め息しか出て来ない
こうも信用されていると逆にいざと言う時何も出来ない
いや、別に何かしようと言う訳では無いが…


「早くっ!早くっ!寒いっ!寒いっ!」


軽快な声と共に足の間に座るツバサは座りながら上下に跳ねた。
そんなグレイは、ヤケクソ状態になりつつも一応気にして直接では無く毛布と一緒にツバサを後ろから包む様に抱き締めた


「やっぱ寒い時はコレだよな〜!寒いのマシになって来た気がする」

「俺はどうなっても知らねえぞ…」

「暖房直るまで毎日グレイに暖めてもらおーっと!」

「俺の良心が持たねえよ…」


嬉しそうに言うツバサと対照的にグレイは何とも言えない感情と戦っていた

まさかこの歳にもなって、コレをやる自分が居るとは…


「寒さ凌ぎ隊結成だなッ!」

「どんな隊だよ…」

「しっかり私を暖めるのに専念してくださいって隊!」

「そーかよ…しっかり暖めてやるよ」


この状況に開き直ったグレイは、意地の悪い笑みを後ろから送り毛布共々ツバサをもみくちゃにした
暖かいを通り越して暑くなりそうなやり取りだ


「オイコラ!」

「寒いんだろ?遠慮すんなって」


もみくちゃにされ暴れるツバサを止める為にグレイは後ろからギューッと抱き締めると言うか絞めた。
仲良く一枚の毛布で暴れる姿は、ガキそのものだ


「あぁッ!?ドコ触ってんだよ!」

「ヤラシイ言い方してんじゃねえよ!」


触ったのはお腹。
しかも単に当たっただけ

妙なツバサとグレイのやり取りは暖房が直るまでの間、数日続くこととなる



寒さ凌ぎ隊!
(お返しだ!)
(ドコ触ってんだよ)
(グレイこそヤラシイ言い方すんなよ!?)
(同じくお返しだろ?)



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