Present

□Rain
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「…え?」

「お帰りなさい!」


今日は一日中、あいにくの雨

この寒い季節に雨なんか降ると気温はグンッと下がり肌に突き刺すような寒さになる
冷え切った身体を早く温める為に早く風呂に入りたいとか暖かいコーヒーが飲みたいとか、暖かくなる様なことを考えながら右手に傘を握り絞めて帰路に着く。

そしたら家の前に黒い影が見えるんだ
雨のせいか霞んで見えるが小さな丸い影が


「…だれだ?」

「あたしナナシチャン!帰る家が無くなってしまったの」


だから何だと言うのだ…
家の前で三角座りをしているナナシチャンと言う女…のコ?

このドシャ降りの雨の中、傘もささずに雨に打たれて屈託のない笑顔でそう言う

訳が解らないが、この雨の中何もせずにほって置く程俺も悪者じゃない

自分は寒い。
だが、彼女はもっと寒いだろう…


「とりあえず、入るか」

「ありがとう!」


雨に濡れボタボタと雫が床に落ちて染みを作る
そんな彼女にバスタオルを渡してやった
渡されたバスタオルで頭をわしゃわしゃと拭いている


「…おま、」

「え?」


そんなナナシチャンの一連の行動を見ていたら、あることに気付く。

そう…
雨に濡れた服が身体にへばり付いて、中に着ている下着が丸見え状態

ちょっとは隠せよ…


「お前、風呂入って来い」

「あっ、押したらこける〜」


透けた上半身を見ないようにする為、背中を押し風呂場に連れて行った
どのみち、あのボタボタに滴る水を拭き取った所で冷えた身体は温まる訳がなかった
それならシャワーでも浴びるなりして温めた方が手っ取り早い。


「でも着替えがない」

「俺の着てろ」

「パンツは?」

「………俺の着てろ」


そんなことは考えていなかったので、ナナシチャンの返答に困ってしまった。
まさか女用の下着が出てくる訳も無く、考えつかず咄嗟にそう言った

まあ、ここにずっと居る訳でもないし新品の俺のトランクスを履いてれば少しは凌げるだろうと言うことで考えを纏めた。

バタンッとドアが閉まる音がして風呂に入ったことを確認し、キッチンに立ち湯気の立つコーヒーを煎れてソファに腰を降ろした。

さて、俺は見ず知らずの女を家に上げて風呂にも入れてやったけど、こんな展開を想像したこともなかったから、どうしたもんか…

ナナシチャンは何故、俺の家の前で傘もささず雨に打たれていたんだ?
俺はあんな子知らねえぞ?

タバコを取り出し火をつけて煙りを大きく吸い、そして吐き出す。
コーヒーを音を立てて啜り、この展開にボー然とする。

しばらく何も考えることなく座っていたらガチャリと言う効果音が聞こえて来た

 …あがったか。


「気持ちかったあ!ありがとう」

「良かったな」

「でもパンツ気持ち悪い」

「我慢しろ、帰ってから着替えろ」

「え?帰らないよ」


 …は?
帰らないとはどういうことだ…
ナナシチャンは風呂から上がるなり何を言ってるんだ

風呂からあがりたてのナナシチャンの髪は濡れていて、乾いていない水が頬を伝って垂れた

ナナシチャンは小首を傾げて何言ってんの?と言いたい様な表情に逆に何言ってんだ?と返したい。


「帰る家無いって言ったでしょ?だから此処に住ませて貰おうと思ってアナタを待ってたの!」


さも、自分の言ってることはおかしくないかの様に淡々と告げるナナシチャン。


「もう帰るとこないの」

「だからって…本気かよ!?」

「あたし嘘ついたことないよ?」


いや、だからな?
そんなことを笑顔で言われたからって、はいそうですかって俺が言うとでも思ってんのか!?

「外は雨…あたしは女の子…」

「で?」

「そんな子をアナタは放り出せるの?」


な、なんで泣きそうになってんだよ…
これじゃ俺がまるで悪者じゃねえかよ

目の前のナナシチャンは顔をぐしゃっとして今にも泣き出してしまいそうな予感…


「わーったよ!泊めればいいんだろ泊めれば!今日だけだぞ」

「ヤッター!ありがとー」


女ってのは怖いな…
さっきまで泣きそうな表情は何処に行ったんだ
両手を上げて喜ぶナナシチャンにしてやられた感じがしてならなかった



Rain






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