Extra Joyful

□甘いのがイイ
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「あぁ゛指切っだー」

「大丈夫!?ってミサカはミサカは気が利く女の子になってみたり」


右手に包丁を握り締め、左の人差し指は口の中へ
幸い掠った程度に切っただけなので大事にはなっていない
そんなトモにエプロンを装着した打ち止めはポケットから常備している絆創膏を渡した


「もー指が全滅です」

「五本とも切るってある意味天才かもってミサカはミサカは尊敬の眼差しを向けてみる」

「ミサカさん、それ私でも分かったよ?嫌味だって」


見事に包丁で切りつけた五本の指と打ち止めを交互に見やる
卵を割る事しかしないトモが包丁を持つとこう言う事態になる

普段なら嫌味もサラッと流すが今回はしっかり受け取ったようだ


「ってことで次ミサカの番〜」

「ミサカの腕をしっかり見ておきなさい!ってミサカはミサカは上から言ってみたり」

「めんたまこじ開けてガン見させていただきます!」


ビシッと指を指しながら言った打ち止めは、せっせと持ってきた椅子に乗りキッチンに立つ
キラーンと構えた包丁を上から下へ豪快に振り下ろしブツを粉砕…


「ミサカもやれば出来るんだからってミサカはミサカはもう一度グサリッ!」


愉快な声と共に更に包丁を振り下ろす
その度にトモは隣でおーと歓声を上げ拍手を送る
それに気を良くした打ち止めは軽快に包丁をトントンとテレビで見るような切り方をして、


「いっいたっーい!ってミサカはミサカは切れた人差し指に涙を浮かべるんだけど…」

「ミサカもやりよったッ!?大丈夫、こんな時の為のハイ絆創膏」

「ありがとうってミサカはミサカは調子に乗った事を反省してみる」


切れた指を差し出しトモは上から絆創膏を貼ってあげた。

トモへの嫌味を反省して打ち止めは再度再開
それからもイタイと奇声を上げる打ち止めにトモは絆創膏を

すっかりお揃いに仕様になった二人の左手
五本指に絆創膏をぐるぐると…


「包丁って難しいね」

「そうだねってミサカはミサカは今更ながら思ってみたり」


台所で立ち尽くす二人はしみじみと呟いた
珍しくお互いを少々バカにしあった事に反省しジッと見合ってどちらからともなくガッシリと抱き合った


「名誉の負傷だよミサカ!」

「お疲れさまってミサカはミサカは自分達を褒め称えてみたり」

「包丁は手を切るもの!大事な事だから二回言っちゃうよー」

「包丁は手を切るもの!ってミサカはミサカはトモの代わりに二回目を言ってあげるんだから」

「ありがとうミサカ!」


そんな二人の様子をそーっと覗く保護者二人
そもそもの事の発端はこの二人
言うだけ言って家に残して買い物へ出掛け帰って来たら何故か抱擁中。
ツッコミ所が多すぎて逆に出ていけないが、これ以上怪我されても困るので出て行く事に


「そんな訳ないでしょ」

「毎回包丁で手なんか切ってたらキリがないじゃん?」


とりあえず最初にツッコミたいのはここだ
帰って来た黄泉川と芳川に惚けた顔を見せた二人は切るものだよね?と顔を見合わせて言った


「だってホラ!左手全滅だし」

「絆創膏が足りなくなっちゃうよってミサカはミサカも左手を見せてみる」


痛々しい左手を何故か誇らしげに見せるトモと打ち止めに苦笑いを送った

そんな二人は只今、チョコレート作りに励み中
包丁で刻んでいたのはチョコ。
溶かすために黄泉川から刻めば早く溶けると言うことを教わり実践していたのだが…
手慣れない物で手こずりまくった状況だが、


「でもでも〜!」

「任務完了だよってミサカはミサカは自慢してみる」


ジャーンと細かく刻まれまな板に散らばったチョコを笑顔で披露
そんな二人に黄泉川と芳川は息を一つ吐き、一緒に台所に立った


――――


「…甘ったりィ」


それが玄関で足を踏み入れた時に最初に思った事
どこもかしこも甘い匂いがプンプン漂う家の中

一方通行は甘過ぎる匂いに反応して片眉を上げる
そしてバタバタと走り寄って来る足音が二つ

誰だなんて聞かなくても分かる足音
まさか、この足音が黄泉川と芳川のモノだったら逆に怖い…


「ハッピーおかえり〜!」

「バレンタインおかえり〜!ってミサカはミサカは待ってたんだよってお伝えしてみる」

「あン?」


いつものことだが…
いつにも増してテンションの高い二人はなんだ

憎たらしい程に笑顔で迎えられた一方通行はまず思った。
俺はハッピーでもバレンタインでもそんなチンケな名前ではないと


「やっと帰って来たじゃん?」

「お帰り一方通行」


杖を着く一方通行の足取りを少しでも早く中へ入れるために打ち止めは杖を着かない反対の手を
トモは後ろから背中を押してグイグイと二人に連れられて行く
リビングへと入れば黄泉川と芳川がテーブル前に立っていた

どォでもイイが家の中が甘ったる過ぎる


「座って座って〜!」

「オイ、なンだこりゃあ?」

「アナタをオモテナシしてるのってミサカはミサカは椅子を引いてあげてみたり」

「ナニ企ンでやがる」


帰って来るなり椅子に座らされた一方通行はされるがまま
全く意図の分からない状況にただただ疑問符を浮かべた
座る一方通行の両隣に立った二人はジャーンと本日出来上がったアレを差し出した


「…フンコロガシのフンか?」


ズイッと差し出されたモノは、球型の黒い物体
サイズはそれぞれ異なっていてトモのは大きめで打ち止めのは小さめだ

そう例えるならまさにフンコロガシのフン…
一方通行のデリカシーのカケラも無い思ったままの感想だった


「これのどこがフンに見えるって言うのさ!?」

「なンだァ?鳩のフンだって言いてェのかよ」

「フンから離れて!?ってミサカはミサカは乙女心をちっとも分かっていないアナタに憤慨してみる」

「他に何があるってンだ」


‘フン’発言に黙っている訳が無い二人は喚く
確かに丸い物体をいきなり渡されてもさっぱりだ

そんな言葉足らずの二人に助け舟を出した


「今日はバレンタインじゃん」

「貴方の為に二人が作ったのよ」


ナルホド。
この甘ったるい部屋の正体はチョコレートの匂い
そして差し出された丸い物体もチョコレートって訳か

漸く意図が分かった所で改めて二人の持つチョコの塊を見た
他の形にはならなかったのだろうかと言ってやりたいが、


「好きな人に贈るんだって」

「…へェ」

「一方通行大好きだから頑張って作ったのさッ!」


サラッとこっぱずかしいセリフを吐くトモに顰めっ面になり舌打ちをする一方通行


「おっ?照れてる照れてる〜!」

「黙れクソが」


煽るトモに本当に照れたのか一方通行はチョップをかます


「ミサカもミサカもアナタが大好きだから作ったんだよってトモに負けじと言ってみる!」

「マセてンじゃねェぞクソガキが」


こちらも鬱陶しい程にこっぱずかしいセリフにチョップをお見舞いしておく


「もー照れてると暴力に手を出すなんてどっちがガキだか」

「あ゛ァ!?」

「それでもめげずに手作りチョコを渡すんだからってミサカはミサカは笑顔で言ってみたり」


そう言ってニィーッとアホ面と一緒に作った丸いチョコの塊を一方通行の顔の前まで持って行く
それと一緒に見えたモノがある
それは二人揃って左指五本共に絆創膏を巻く手

真新しい傷なのか赤で薄く染まった絆創膏

たかがチョコ一つで傷だらけ…
想像しなくても分かる
凄く頑張った事ぐらい


「…ありがとよォ」

「…!!どーいたしましてッ!」

「素直なアナタに驚いてみるってミサカはミサカもどーいたしまして!」


一方通行の一言にとても嬉しくなり、チョコを放り投げて抱き付いてきそうな勢いの二人を必死に抵抗する彼に黄泉川と芳川は盛大に笑った


「よーし!あたしからもプレゼントしちゃうじゃん」

「マテ、そこで炊飯器を持ち出すテメェが分かンねェよ」


バレンタインじゃーんと台所から両手で炊飯器を持って来る黄泉川にトモと打ち止めに飛びつかれる一方通行は眉を釣り上げる

ドンっと机に置いた炊飯器からは甘ったるいチョコの香りが漂う


「トモも打ち止めも一方通行も桔梗も、みんな好きだから愛穂お姉さんからプレゼントじゃん」


黄泉川がそう言えば、笑顔でトモと打ち止めは自分達も大好きだと答えた

妙に甘い空気が漂うのは、この空間がチョコレートの香りで甘いからか…
そんな黄泉川家のとある二月十四日、バレンタインデーの日のお話



甘いのがイイ
(所でコレはなんなの?ってミサカはミサカはドロドロチョコレートを指さしてみたり)
(チョコレートフォンデュするじゃん)
(色気の欠片もねェ炊飯器かよ)
(今日はチョコレート祭り〜)
(トモ早速口に付いてるわ)



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