Extra Joyful

□タイムスリップ…!?
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いつもと何ら変わりは無い
珈琲の袋を片手に帰路につくだけ
杖での歩行も特に気にすることもなく行えるようになった

今一番気になることと言ったら、


「…あちィ」


思わず声に出てしまう程に照りつける太陽が鬱陶しい事ぐらいだ
能力のおかげで暑さなんて関係なかったが、今はそうもいかない
普通に人並みに暑い

家に帰ったらクソ共三人がギャアギャアと煩くお出迎えをしてくれるだろう
黄泉川辺りが炊飯器で冷たい物でも作り、芳川がツッコんでる最中か

ゆっくりと足を進め、そんな想像を働いている自身が笑けてきて一方通行は、フンッと鼻を鳴らした

取り敢えず暑いので、さっさと帰るかと思いながら歩みを進める

暫く歩いていると、前でちょろちょろと動く少女が見えた


「…ねえ、」


年齢にして十前後だろうか、打ち止めよりは少々幼そうな少女
いつの間にか足は止まっていて、少女を目で追っていた一方通行

見るに少女は、道行く人に話し掛けては無視をされ、気付いて貰う為に触れようとした手は宙を舞う

一方通行から見れば、何の遊びだ?と言う感じだ

無視をされればされる程、少女の顔は段々と曇っていく


「あン?」


視線が明らかに此方に向いている事が気になった
道行く人は少女など居ないかのように歩みを進めて行く

そこだけ時が止まった様に少女は一方通行へと一点を見つめて此方に近付いて来た


「なンだァ?」


下から一方通行を見つめ目の前で止まる
不思議そうに自分を見つめる少女に疑問しか浮かばない
何で目の前で止まってんだと


「…見えるの?」

「あァ?」

「お兄ちゃん見えてるの?」

「返答出来てるっつーのは見えてンのと一緒じゃねェのかよ」


少女に答えてやると驚いた様に目を見開いた
そして、再度確認を取るようにもう一度、


「本当にトモが見えるの?」

「…トモだと?」

「うん、トモが見える?」



偶然…なんだろうか
トモだと言う少女に今度は一方通行の方が目を見開いた

いや、別に珍しい名前でも何でもないので‘トモ’なんて名前はゴロゴロ居るだろう
一方通行の頭の中には、一瞬アホ面で満面の笑みのトモが過ぎった

無駄に浮かんだその顔に舌打ちをした一方通行は、自分の返答を低い位置から待つ少女に答えてやる


「ちゃンと見えてンぜ、ボサ毛のトモちゃンよォ」


一つ。
一方通行は、幼女には優しい


――――


「トモ悪いコトしたから透明なおからだになっちゃったの」

「…そォかい」


一方通行は帰っている最中だ

 …最中だと思いたい

だが、なんだ?
自分の姿が見えている事に嬉しいらしく懐いて着いて来た少女‘トモ’


(コイツ、トモか?)


少女の話は一方通行も知っているトモの過去とどうも話が被りすぎている


「手を真っ赤にするのはいけないことなんだって、トモは助けてあげたかったのに…」


学園都市そのものこそオカルトな世界である様な物なので、多少の狂った事態には驚かない

だがまさか自身が過去へやって来ているなんて、それこそオカルト中のオカルトは信じたくもないが…


「でもトモが見える人にはじめて会ったのさッ!」

「……トモだな」

「トモがなあに?」

「イヤ、なンでもねェ」


一方通行は確信した
こりゃ、トモに間違いないと。

さて、どうやら自分は過去にやってきたらしい

どうしたもんか…


「オマエ、普段ナニしてンだ?」

「テレビ見てるよ」


あそこの電気屋さんのね〜と指を指しながら説明する
現在ハマっているのは、お昼時にやるドロドロとした複雑な恋愛ドラマ
いわゆる昼ドラと言うヤツだ
毎日同じ時間に来てはそこの電気屋で観賞するのが日課だそうだ


「あとはね〜漫画を読むのが好きだよ」


コンビニで立ち読みしている人の後ろに立ち一緒に読む
たまに読むスピードが早い人に出くわした時は、まだ読み終わっていないのに次のページを捲られて大変だ。と愚痴を零す

それがトモにとっての日常


「でも悲しい。前まではお喋りしたり抱っこだってしてもらえたのに今じゃ誰もしてくれないから寂しい」


親の愛情も知らないで育った所為か人との接触を誰よりも好む
だから扱いやすく、まして子供だ
褒めれば何だって喜んでやる

それが人の命を奪っている行為だとも分からずに今まで自分がやって来た事への罰…

小さな子供にとっては、悲しすぎる罰だろう


「でもお兄ちゃんはトモが見えるんだね!もしかして抱っこしてもらえるかなあ?」

「フンッ無理だろ。俺がオマエを見えているコト事態が奇跡なンじゃ、」

「あぁー!?おにいちゃん触れてるよー」


試しにピトッと腕に触れてみれば、一方通行の人としての温もりがトモの手に伝わる
それは確かにそうで、現に一方通行も腕に触れられている感触を感じられた

もうこの状況自体が奇跡の様なもので、どうして幼女トモを相手にしているんだとか疑問は山ほどある

考えていてもどうしようも無い状況下で分かっていることが一つ


「ってことで、だっこ!」

「誰が、」

「だっこ!」

「するかってンだ」

「だっこーー!!」

「…はァ」


誰にも姿を捉えてもらえず、触れられない筈のトモが一方通行には見えるし触れる事が今明らかになっていることだ


「特別大サービスだ」


夢のような今を受け止めた一方通行は、トモの両脇を抱えて持ち上げ、膝に乗せる形で抱いた


「ありがとうおにいちゃん。トモもうちょっとがんばれるきがするよ」


首に手を回しギュッとしがみつく小さなトモ
こういう時、一方通行はどう接したらいいのか分からない

だがこれが過去だとすれば、伝えてあげられることがある


「…大丈夫だ。オマエは強い、一人なンかじゃねェ。トモの取り柄はポジティブでアホ面の笑った顔だ」

「うん」

「だから笑え、泣くな」


小刻みに震えているトモは、久々の温もりに涙を流していた
あやすように頭に手を置いた一方通行は、瞳から流れる涙を指で拭ってやった


「お兄ちゃんお名前は?」

「一方通行だ、よォく覚えとけ。いつか人の前にケツ振って現れンだからよォ」

「あくせられーた?れーたおにいちゃん!トモのコトも忘れないでね」


それが最後にトモと話した最後の会話だった


――――


何だって腹の上に重みを感じるんだ
もう少し違う起こし方は無かったのだろうか

寝起きだと言うのにヤケに冷静に自分の上に跨がるアホ面を見ることが出来た


「おはようございまーす!」

「ナニ人の上に跨がってオハヨウゴザイマースだ」

「今日はこうして起こしてあげないとダメな気になったのさッ!」


虚ろな目で捉えたトモは、幼女なんかでも無い‘今’のトモだった

どうやら夢だったみたいだが…
妙に現実味のありすぎた夢だった


「オマエ電気屋のテレビ見て育ったンかよ?」

「そうそう!昼ドラのね、ドロドロしたのがさ〜」

「コンビニで立ち読み客の漫画を盗み見してたのか」

「みんな読むの早いんだよね〜着いていくのに必死だったさ」


あの頃を思い出しながら、うんうんと頷くトモは、何かがおかしい事に気付く


「へ?なんでレータが知ってるんだい?私言ったけか!?」


話した事があるかもしれないが、そんなに事細かく言っただろうか?
考えた末にじーっと一方通行を凝視し、ハッと何かを思い付いたように突然前のめりに倒れ込んだ


「痛ェよ!急に降ってくンな」

「あぁッ!?れーたおにいちゃん!アレ?なんか知ってるよ、この場面!もしかして、むかーし昔に抱っこしてくれた事ある!?」


遠い昔の記憶を探るようにギュウッと抱き付くトモに一方通行は思った
昔所かたった今したな、と。


「ンなこたァ知るかよ」


さてさて、これは夢か現実か…
その答えは誰にも分からない


タイムスリップ…!?
(ちょっとちょっと!私達ってば運命の出会いを果たしたりしてるんじゃないの!?)
(さァな。つゥかいつまでのし掛かってるつもりですかァ?)



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