Extra Joyful

□定位置はキミの隣
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何もなかった
ただ、黒で統一された空間が広がっているだけだった

誰も居ない
たった一人で佇む空間にしてはそこは広すぎた


「…ハッ」


何が広い、だ。
家の中、公園、学校、街の中心

何処にいたって、中に居ようが外に居ようがいつも一人

そんな空間には慣れた
…慣れた筈だったが、


「なァンか足りねェ」


何が足りない?

核爆弾を撃ち込まれようが、世界が滅びようが彼にとっては関係の無い事だ

それは、これまでもこれからも。

なのにどうしてだろうか?
一人がこんなにも寂しいと思う自分が居るのは


「………トモ」


一面は真っ暗闇で音も無く静けさだけが残る空間に真っ白な彼の一声が静かな空間に響いた

そのたった一人の名前を呟いた声が一方通行の耳に、自分の声がヤケに耳に残った

そんな己自身に舌打ちをする。

彼は気付いてしまったのだ
こんな時だからこそ、余計に思ったのかもしれない

いつも煩い程に自分の周りでハシャぐ彼女の存在に

涙を流してくれたり、笑ってくれたり
思えば、自分自身が出来ない事を彼女が変わりにやってくれた


「くそったれが…」


くそったれは自分。
今更気付いたって遅い、居なくなって初めて気付く

トモの存在がどれだけ自身の中で大きいかを


「アクセラー!」

「チッ、幻聴まで聞こえて来やがった」

「レーター!」

「うっせェ、居ねェンなら声だけ出てくンな」

「ひろしー!」

「…はァ?誰ですかァ?」


なんともトモらしいふざけた幻聴に苦笑いを零す

本当の名前は忘れたが、決して本名が‘ひろし’なんぞと言うありきたり過ぎる名前では無いことを祈りたい
まして百合子でも無い、と呼ばれてないのに思ったり

幻聴はどこまでも幻聴で、一方的に名前を呼ばれるだけで一方通行の返事には答えない

ただ、トモは叫ぶ。
ひろしひろし、と…


「ひろしじゃねェ!ボケトモがァッ!」

「あっ!やっと起きた〜?」

「…あン?」


幻聴トモが視界いっぱいに広がった

先ほどまでは、会話にすらならなかった訳だが…
そして先ほどまで真っ暗闇だった世界も朝日がカーテンの隙間から差し込んだ少し眩しい空間になっていた

おはよー!と満面の笑みで言うトモに何だか一気に拍子抜けした


「珍しく魘されてたから起こしに掛かってみたけど、レータ全く起きないもんね」

「あァ、」


そうか、あれは夢だったのか


「ところでひろしって誰?ひろしにイジメられて魘されてたの!?」

「オマエがひろしっつったンだろォが」

「えッ!?」


まあある意味‘ひろし’にイジメられたモノだが…
そんな事言ったっけか?と必死で考えるトモを寝ぼけまなこで見る一方通行はトモの腕を引っ張った


「うおッと!?」


体制を崩したトモは前のめりになって一方通行の横になるベッドに倒れたかと思いきや、


「なんだなんだ!?レータどうしたのさ!?」

「うるせェ」


そのまま一方通行の腕の中に閉じ込められた
ギュウッと抱き締められるトモの視界は一方通行の胸板が邪魔して真っ暗だった

顔を見られない様にする為か、一方通行はトモの頭を自分に押し付ける


「なになに!?デレ期の到来?ひろしへの腹いせ?」

「そォだなァ」


どこかいつもより声色が優しい
そしてトモから抱き付きに行くのはザラにあるとして、一方通行から抱き締められるなんてきっと初めてだ

何かあったのか?
ふざけた物言いをしてみたが、魘される程だから余程酷い夢でも見たんだろうか?


「一方通行?」


いつもと明らかに違う彼に少しだけ顔をあげ、名を呼んだ
一瞬だけ見えた一方通行の瞳は自分に向いていたが、直ぐに押し込められたので、また視界は真っ暗になる

一方通行の腕は暖かった。
何の変哲も無い腕
だがトモには、その腕が震えている気がした


「大丈夫!私はここにいるよ」


そう言って、腰に手を回してギュッと抱き締め返した
今の一方通行は、小さな子供の様に見えた

何の返答も無かったが、これも気のせいかもしれないが、腕の震えが止まった気がした


「俺ァ、」

「ん?」


暫く穏やかな沈黙が続いたあと、一方通行は切り出す


「案外オマエの隣が好きみてェだ」


そんな一言にトモは目を大きく見開いた
まさか一方通行の口からこんな言葉が飛び出して来るなんて

何だか逆にこっちが照れてきた
そう思うと、段々と頬が熱くなってくる
同時に嬉しさも込み上げてくる


「私も一方通行が大好きだよ!」

「別にオマエがなンて言ってねェ。あくまでも隣だ隣」

「またまた〜?そこでツンを発揮するなんて、照れ屋サンめッ!」


珍しく、いやそれは世界がひっくり返るのでは無いかと思う程に今の一方通行は素直過ぎた
それも寝起きで寝ぼけている所為かどうなのかは一方通行自身にしか分からない


「クソが、マジでムカつくなオマエ」

「でも好きなんでしょ?トモさんがさ〜!」

「チッ、言うンじゃなかった」

「オォッ!?否定しないんだね?もう今日は一段と可愛いねレータ!」

「血液逆流の刑決定だなァ、トモちゃンよォ」


いつからだろうか?
トモが隣に居ることが当たり前になったのは

いつからだろうか?
トモが隣に居ないと物足りなく感じてしまったのは

当たり前が無くなった時。
初めて知ることが出来る
初めて素直になれる瞬間かもしれない

一方通行は思う
これからも自分の前から居なくなるなと
いつまでも隣で笑っていろ、と。


定位置はキミの隣
(大変!みんなに自慢しなきゃー)
(一応聞いてやる。ナニをだ?)
(レータの今年一番のデレ期と愛の告白を受けましたってさッ!)
(口が開けねェ顔にされてェンだなァ?)



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