SHORT STORY

□逆バレンタイン
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「元気かスナー!」


バレンタイン。
それは好きな人に想いを伝えたり、好きじゃなくても義理でチョコを上げたり…

それぞれが思いのままに動く2月14日

そんな大事な日に最悪な状況に置かれているあたしはただ今風邪で寝込み中…

風邪を引いているということはもちろんチョコレートを作る気すら起きないこのダルさ
バレンタイン当日になっても熱は下がらず寝込んだ状態…
ハッピーバレンタインなどと吐かしている場合ではないのだ

今年こそは…!
本命一本に絞ってあたしの想いを伝えようと張り切っていたのにも関わらず、己の自己管理の悪さにより風邪を引いてしまった自分を恨む

あぁー外では今頃どうなっているのだろうか?
そこら中にカップルが誕生しまくっているのか…
はたまた、義理チョコを貰い喜んでいる物もいるのだろうか…

考えれば考える程に虚しくなってくる自分に泣きそうになる

そんなことを思っていると急にバタンッと盛大に大きな音を立てて家の扉が開いた
開いて間もなく大きな声であたしの名前を呼ぶ

こんな大胆に入って来るのはあの人しか考えられない


「元気じゃないよ、ナツ…」

「ハハハ、死んでんな〜」


そこは笑う所なのだろうか?
あたしの姿を見るなり急に笑い出したナツ。

ナツの姿を久しぶりに見てこの二、三日誰とも会って居なかったのでしんどいながらも嬉しかった

だって何を隠そう、あたしの目の前に居るナツのことをあたしは大好きなのだから…

だからバレンタインにチョコを作って告白…
そんな妄想を抱いていたのに、死んでしまっているあたしにはナツに会いに行く元気すらない

会いに来てくれたのは嬉しいけど何も用意することが出来なかった自分が悲しいのだ…


「どうしたのナツ?風邪移っちゃうよ」

「スナ今日は何の日か知ってっか?」


せっかく来てくれたのは嬉しいんだけど、あたしの風邪をナツに移してしまったら話しにならない。

そんなあたしはナツに素っ気なく言った

…つもりなんだけど、ナツは全然気にしてないのかあたしとは対照的にニコニコと笑ってそう言った。


「バレンタインでしょ?ごめんね、上げる元気ないよ…」

「大丈夫だ!俺がやる」


ほらよ!っと言ってあたしの手元に赤い紙で包装された箱をゆっくりと投げた


あまりにも一瞬の出来事だったのであたしは慌ててナツがほって来た箱を掴んだ

ナツがあたしに…
チョコレートくれるの?


「知ってるかスナ?今日は一番大好きなヤツにチョコレートあげる日なんだぞ!」


そう言ってナツは自慢げに腰に手を当て、威張っている

ん…?
なんかナツの言葉に引っ掛かりが…


「…ナツ、もう一回言って?」

「あん?だから一番大好きなヤツにチョコレートをあげる日だって!ミラが教えてくれた」


一番、大好きな…人?

ボーッとする頭でナツの言葉を永遠リピートする
それはあたしが一番大好きだからチョコレートをあたしにくれたって思ってもいいのだろうか


「俺はスナが一番大好きだからな!やるよチョコ」


なんて無邪気に笑っているんだろう
ナツは照れる事なく平然と言う


「…そっか、ありがと…」

「おぉい!スナ!?」


ナツの嬉しすぎる発言に段々と頭の整理が落ち着いて来た時には、顔のほてりが最高潮に達した。
熱が急激に上がって行くのが解り、ベッドに座っていたあたしはボフッと音を立ててベッドにダイブして倒れた


「おい、スナ俺のチョコ食ってから寝ろー」


倒れたあたしの体を揺さ振りながらナツがそう言う

バレンタイン…
あたしは今まで女の子が男の子にあげるものだと思ってた
だけど、ナツがあたしにチョコをくれた

一番大好きだからって…

そんな幸せな気持ちを与えてくれたナツに今度はあたしがお返しする番だね


「食ってくれねーと俺がスナ好きじゃねえみてぇだろ」


幸せそうな笑みを浮かべて眠るスナをずっと揺さ振り続けるナツ

返事の返って来ることのないスナに向かってナツはずっと話し掛け続けた。


「…す、き…なつ…」


スナは幸せな夢を見ているのだろうか
微笑みながら寝言を静かに零した。




END

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