SHORT STORY

□ハツコイチョコ
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「ガジュおにぃちゃんいますかあ?」


あーねみぃ…
何だってんだよこのギルド
見たこともねぇ程の桃色ギルドってか?
2月14日がなんぼのもんだってんだよ

炎ヤローは朝からうるせえ
氷ヤローは色気づいてやがる

チョコレートがなんだってんだよ。

ガジルは二階の手摺りに肘を置きながら下に居る連中を観察している…のか羨ましそうに見ているのかどうか…

片眉を吊り上げ、ふて腐れている様にも見える
バレンタインデーである今日は男共が血相を変えて煩く走り回っている

それを上で傍観しているのはガジル
下の雰囲気には着いて行けないようだった


「誰かこの子知ってる〜?」


ボケーッとしていたガジルは大きな声を出し皆に問い掛けるレビィの声を拾い玄関前に立っているレビィとその隣に居る者を見た


「レビィちゃんその子誰?」

「ガジュおにぃちゃんいますか?って尋ねて来たみたいなんだけど…心当たりが無くてこうしてみんなに問い掛けてるって訳」


レビィの声にいち早く気付いたルーシィが問い掛けた
レビィに手を引かれ立っていたのは小さな小さな女の子

‘ガジュおにぃちゃん’を尋ねて来たみたいなのだが…

ギルドの連中は誰だとか、知らないだとか、口々に話していた


「ガジュおにぃちゃんね〜誰のこと言ってんのかさっぱりだわ」

「ルーちゃんもそう思うよね!ね、そのガジュおにぃちゃんってのはどんな人なの?」

「んとね、髪の毛ツンツンなんだよ!それでね、」


小さな女の子が探し人について手振り身振り使って一生懸命話す。
そんな三人の様子を二階から見ているガジルは、


「…!何でいんだよ…!?」


肘を付いていた手摺りからズルリと落ちそうになるのを必死で止めた
口を開け目を見開き、見た事もないような表情をするガジル


「あぁー!ガジュおにぃちゃん居たー」


一生懸命話す女の子は、手摺りから滑り落ちそうになっていた人物が目に止まり嬉しそうに指を指しながら叫んだ
ガジルに向かっていっぱいに手を振る女の子にしまったと言う顔をしながら、二階から豪快に飛び降り、女の子の前にスタッと着地した


「おわっ、おにぃちゃん…」

「コイツは俺の知り合いだ」


着地するなり女の子を持ち上げ自分の肩に乗せる
ルーシィやレビィから先にツッコまれる前に自分からそう言いギルドから出て行った

出て行ったガジルと女の子を見てレビィ、ルーシィだけでなく、ギルド中が口をあんぐりと開けていた


「あれが…ガジュおにぃちゃんだったの?」

「一番無いと思ってた人物なんですけどー」


ガジルにお客さんなんて…
ましてや相手は小さな女の子。

絶対に一番、無縁な相手であろう、皆が皆そう思い驚きを隠せないでいた


「どうして居るんだ?」

「ガジュおにぃちゃんに会いに来たんだよー!」


ガジルの肩に乗ったままの女の子が満面の笑みでそう言った
ガジルは訳が分らずどうしたもんかと言った感じだった


「スナ、一人で来たのか?」

「うんっ!スナエライ?」


自慢げにそう言った女の子、スナに何て言ったらいいのか分らず黙り込んでしまったガジル

スナは前に仕事で行った、幼稚園の園児だった
どうしてか、見た目も怖いガジルを怖がらずに懐いた園児達
その中でも一番懐いたのがスナだった
ガジルが帰るまでずっと離れなかったスナ
そんな子がわざわざ自分に会いに一人でやって来る
小さな子供が危険を侵して自分に会いに来る意味が理解出来なかった。

だってそうだろ?
いくら幼稚園からギルドまで距離が短いと言っても大人の短いなんて子供からしたら結構な距離になる筈だ

スナは何を考えるんだ…?


「どうした?なんかあったか?」


だが、小さな子供を放って置く程俺も悪者じゃねぇ
仮にも先生やりに行ったんだからよ

幾分か優しく見えるガジルはスナに聞いた


「スナね、ガジュおにぃちゃんにチョコ持って来たの」

「あ…」


肩に乗っかったスナはガジルに見える様に目の前に小さな手の上にスナサイズの小さなチョコを出した
ガジルは目の前に差し出されたチョコを見て固まってしまった


「スナの好きな人はね、ガジュおにぃちゃん!大きくなったら‘ケッコン’してください」

「けけ、結婚…!?」


ガジルにとって初めてのプロポーズであり初めてのチョコ
小さな、女の子にとっての‘ハツコイ’は大きな男の子だ

最近のガキはマセてんのか!?
結婚って…
俺はどう反応したらいいんだよ


「…考えとく」

「やったー!ガジュおにぃちゃんだあーいすきっ!」


結局、対処法が分らずにガジルは曖昧な返事を返した
スナはそれが嬉しかったのかガジルの顔に抱き着いた…と言うか巻き付いた。

柄にもなく小さな女の子相手に照れるカジルは初めてを沢山くれた女の子に見たこともない笑顔を見せた

いつものギヒヒと言う笑いではなく優しい笑顔


「家まで送ってやるよ」

「ガジュおにぃちゃん、チョコ食べてよ〜」


肩に乗っかるスナを見て自分も捨てたもんじゃないなと思ったのだった




END

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