I don't love you?

□喧嘩するほど仲が良い
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ピンと伸びた背筋
腰までのびた鮮やかな黒を靡かせる綺麗な髪
国籍は日本、好物はジェリーが打ったうどん

任務先から帰って来、報告に行くために廊下を歩く
後ろからバタバタと何人かの足音が聞こえる
もう慣れた所為か気にせず足を止めずに歩く

だが、心の中で思う
頼むから、


「神田おかえりー!!」


間違えるな、と…


「神田じゃねェエエ!!」


グワッと後ろを振り返り反論の怒声を飛ばす


「チビ神田おかえりッ!」

「チビ神田じゃねえッ!」


これは確信犯だ
神田じゃないと分かっていながらも、直接本人を目の前にして言えない事、出来ない事を後ろ姿が神田本人そっくりな女、エナで実行する

オマケに神田に負けず劣らずの短気者。
怒ると大変口の悪い子になるのだが、普段は至って普通だ

整った顔立ちから発せられる口の悪さのギャップが堪らないと一部では言われていたり

ムチを持たせば女王様にでもなれそうだ


「「コムイ!!」」


ハモった二つの声から室長コムイの名が呼ばれた

バーンと壊れる勢いで開かれた扉からは、大きいのが一人と小さいのが一人
どちらも頭の上で一つに纏められた髪が荒々しく揺れた


「おかえりー!神田君にエナちゃん」

「神田!?」

「エナ!?」


そして漸くお互いの存在に気付いた

同じ廊下を同じ早さでドカドカと怒りを込めて早足で、途中で鉢合わせていた事にも気付かず歩いていたにも拘わらず、お互いの存在に今気付いた

認識出来た所でキッと双方にらみ合い、


「「鬱陶しい髪の毛切りやがれッ!!」」


そしてまた、見事にハモらせる神田とエナの声

エナの後ろ姿は神田にそっくりだ
髪の長さも纏め方も同じ
加えてエナの団服はリナリーの様にスカートでは無く神田と一緒でロングコートにズボン
一つ違いがあるとすれば身長ぐらいか

近寄って初めて神田かエナかの見分けがつく
遠近法では分からないのだ


「男なら短髪にしろ!坊主だ坊主!」

「ハッ、テメエこそ女ならスカートを履け」


一緒に居れば一回は必ずやるだろうこのやり取り
科学班一行は見慣れた光景に誰も止めようとはしない


「誰が股のスースーする履き物なんか履くか!そんなに見たいなら自分で履けばあ?ユウちゃん?」

「殺ス。髪も無駄に長いズボンもろとも切り刻んでやる」


エナが間違えられるのだからそれは神田も同じだ
此処に来る前のエナと同じ様なやり取りをして来たところだった


「双子ちゃん達〜?シンクロはそのくらいにして、そろそろ任務の報告をしてくれるかな」

「「誰が双子だッ!」」


二人そのものがだよ、とコムイは言いたかったが、これ以上煽るとどんどん収拾が付かなくなりそうなのでやめておく

仏頂面の短気で美形なパッツンで有名な男、神田ユウ。
彼が仲良く喧嘩をするのはアレンとエナぐらいだろう


「さてと、ご飯でも行く?」

「あぁ」


あまり人との関わりを持たない彼もエナとは割と絡む
幼い時から教団で共に育った同士だからだろうか
それはそれは、派手にいつも喧嘩ばかりしていた二人だが、それも仲が良いから出来ること

本当にお互いが嫌いだったら会話どころか目を合わすことさえしないだろう


「あんらあ〜!久々ねエナに神田!」

「ただいまジェリー」

「久々にセットで見たわあん」


食堂だけにセット。
何かの定食かのように言うジェリーに二人して苦笑い

ジェリーはエナと神田に、


「熱いの?冷たいの?」


とだけ聞いた。
そして二人は答える


「「冷たいの」」


やっぱりセットね〜、と厨房に消えていったジェリーを余所にここでも綺麗にハモらせるエナと神田はバチバチと睨み合う


「真似してんじゃねェうどんが」

「その言葉そっくりそのままそばに返してやるわ」


なんて下らな過ぎるいがみ合いをしていると、早々とお盆に乗った、ざるそば&ざるうどんがやって来た

料理が来たので休戦。
渡されたお盆を持ち適当に空いている席に座る


「いただきます」


箸を持ち手を合わせてエナが言う
それに合わせて横で神田も手を合わせる

姿勢の良い二つの背中に伸びる漆黒の一つに纏められた髪

こんな容姿をした人は、教団に二人しか居ないので直ぐに誰だか分かる

二つの後ろ姿に気付き、ここにもまた綺麗な黒髪を持つツインテールのリナリーが後ろから微笑んだ


「おかえりなさい、二人とも」

「んぁ?リナリーか、ただいま」


教団には、女と呼べる女は少ない
まして同世代なんて草々居ない
そんな場所だからこそ、エナとリナリーは大の仲良しだ


「神田は?おかえり」

「………」


向かいの席に座ったリナリーが神田に促すもズルズルとそばを啜る音しか返ってこない
分かりきってている事なので、もー!と頬を膨らますリナリー


「ちょっとユウちゃん?可愛い可愛いリナリーにそばで返事するなんて、そのパッツンあと二センチ短くしてほしいの?」

「………あん?テメェ前髪全部削ぎ落とされてェのか」


久々にお互い会ったと言うのに…
またしても下らない言い合い

だが、これが彼女達の日常、これが普通。
普段は感情も表に出さない神田が元気になる時…か?

ギャーギャーと喚き合う二人にリナリーは呆れた様に微笑む

だって実感するから
こうして、二人が仲良く喚き合えるのも無事に双方が帰って来た証拠だと。


喧嘩するほど仲が良い
(神田の髪にめんつゆ付けて食ってやる!)
(ベタベタするから止めろ)
(え?問題はそこなの?)

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