Comes Up

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「五百円返して〜なけなしの五百円ー!!」


自販機を両手で掴み、気持ち左右に揺さぶる
だが、気持ちなのでビクともしないし、これまた気持ちなので密かに振動するだけの自販機


何か飲みたいな。
あんな所に自販機発見!
百円が無い…五百円投入。
いちごおでん飲みたーい!
え…反応しない…
五百円返せー!


一連の行動をし、今に至る。

いとも簡単に商品も出さずに、しっかりとお金だけを呑んだ自販機にへばりつくトモ

そんなことをしていても時間の無駄。
お金は返って来る訳が無い

何たって、そう言う自販機なのだから


「ハイ、退いた退いた」

「……嫌」


自販機と熱いハグをするトモに後ろから邪魔だと言われている様な視線と声
反応して後ろを振り返ると、仁王立ちした茶髪の女の子と目が合った

数秒程、涙目になりながら凝視して断り文句を吐く。
この自販機がお金を返してくれるまで退く気は無い


「何やってんのよ?」

「…聞きたい?」

「別にきかな…」

「聞いてよー!」

「アンタが聞きなさいよ!」


別に聞かなくても大体分かる、と茶髪少女、御坂美琴は言おうとした
だがトモは、美琴が言い終える前に悲鳴を上げたので美琴は怒鳴った


「この自販機君が私の五百円を呑み込んだせいで、いちごおでんが飲めないんだよ」

「自販機に君付けってどうなのよ?それに、いちごおでんってアンタ…」

「名前に魅力を一番感じるじゃん!」

「感じるのはアンタだけだと思うけど」


この数分程度のやり取りで美琴はトモを変人だと決め付けた。
ネーミングセンスも選ぶ飲み物の種類も、ましてや自販機にへばりつくトモの姿も
何もかも変すぎる…

額に手を当て、呆れた表情を見せる美琴は、この状況に終止符を打つ為に動いた


「いいから退きなさいって、取ってあげるから」

「本当!?」


美琴の一言で、ぱあッと花が咲いた様に顔を綻ばせたトモは自販機から飛び退いた
入れ替わる様にして自販機の前に立った美琴は、フッと息を整え構えた


「ちぇいさーっ!」

「オォッ!?」


そう言い放ち、自販機に凄い勢いで蹴りをかました茶髪少女に感嘆の声をあげた
途端にガコンッと音を立てて、出て来たジュースにトモは両手を叩き拍手を送った

見事な格闘家顔負けの華麗な一撃が自販機に決まった瞬間だった


「すごーい!魔法の一撃!」

「魔法ってなによ…ハイ、これでいいでしょ?」

「………いちごおでんじゃない」


美琴から手渡された、黒豆サイダーに不服そうな目を向けた

確かに、自販機からジュースを取り出す一撃は凄かった
でも、出て来た物は飲みたかった物では無い
それに五百円を投入した筈なのに、出て来たジュースは一本だけ…


「それにあと四本足りないよ、ねーさん」

「ココは感謝されるトコじゃないのかしら?」


唇を尖らせ拗ねるトモに、少しイラッとした美琴
だが、そんな美琴をお構い無しにトモは、あっ!と声をあげ何かを閃いた

すぐさま、実行にかかる。


「じゃ、次は私の番ね!黒豆持ってて」

「えっ、ちょっと…」

「四百円返せーッ!」


貰ったジュースを渡し、ついでに美琴を押しのけ自販機の前に立ったトモ
見様見真似で、自販機にお金を吸い込まれた怒りと一緒に蹴りをかました。


―――――


「大量大量!いちごおでんも出て来たし、バンバンザイ!」

「私は疲れたわよ…」


二人でベンチに腰掛け、一五本程手に入れた戦利品を脇に置いた

あの後、トモは蹴りを自販機にお見舞いしたものの、蹴りが甘かったのかジュースは落ちず…
何度蹴っても出て来ない事を美琴にぶーたれ、終いにいちゃもんをつけたトモ
ぶーぶー言われ、周りで飛び跳ねるトモにイライラが募り、爆発。

自販機に八つ当たりをし、無実の罪を着せられた自販機はビリビリと音をあげ、大量のジュースでお礼をしてくれた


「楽しかったねー!ジュースもいっぱい!良い人に巡り会えたよ〜」

「まっ、そーいう事にしておくわ」


上機嫌で飲み干したいちごおでんは空になり、二本目のいちごおでんに手を掛ける
トモの嬉しそうな顔に、今までの疲れを溜め息と一緒に捨て、眉を下げて笑い返した美琴。


「何はともあれ、ありがとー!えーっと…」

「美琴よ、御坂美琴」

「美琴ちゃん!私トモ〜じゃ、素敵な出会いにかんぱーい!」


カンッと音を立て、お互いの缶がぶつかる
出会ってから完全にトモのペースにハマった美琴
されるがままに合わせられた缶にキョトンとし、呆れた様に笑った。


「って訳でおすそ分けさッ!」

「どォゆゥ訳だァアア!?」


美琴と別れ、家に帰って来たトモは沢山あるジュースを抱えてお隣サン宅へ

今日のルートは玄関では無く、壁を透けて直接部屋へ
この辺りに居るだろうと予想し一方通行の部屋に侵入


「拭けッ!今すぐ拭きやがれッ」

「厄介な能力め…」


ソファーに座っていた一方通行の真横にいきなり現れたトモに少し驚く
何かと思えば、これまたいきなり、何の前触れも無く主語の無い言葉を吐き、中身の入った缶は上から下へと落下。


「私の優しさを無駄にしたね?」

「優しいもクソもねェ!」


トモはあくまでも一方通行にジュースをあげたつもりだ
だが、一方通行の手に渡る事無く反射された缶は中身をぶちまけ崩壊。
いちごおでんは無惨な形で終わった

一方通行に怒られて、飛び散った産物を拭く羽目に…


「で、なンだ今日は?」

「だから、自販機君がお金呑んで抱き付いて、じゃあバーンって蹴ったらガラガラ落ちて、私もバーンしたけど落ちなくて」

「…ハァ?」

「ビリビリドカーンってしたら、ゴロゴロと落ちて来た今日の戦利品のおすそ分けさッ!」

「もォしゃべンな…」


学園都市最強の頭脳でも到底理解出来ない言葉を並べるトモを一方通行は諦めた。
音ばかりの説明に何がなんだかさっぱりだ
俯いた一方通行は未だに隣で興奮するトモの話を聞き流す

そんな一方通行に何かを勘違いしたトモは、まだあるから大丈夫!と、的外れな事を言い、一方通行にジュースを差し出した


いちごおでん。
(そんなに飲みたかった?まだあるよ、いちごおでん)
(飲むワケねェだろ)
(掛け声は、ちぇいさーっ!だからね)
(マジで黙っとけ)



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