Comes Up

□09
1ページ/1ページ


「当麻にミサカちゃん?何してんの?」

「パンツ…じゃなくて、トモ?」


目的地のない散歩をしていると前方に見知った人達を発見
黒猫を抱えた当麻とミサカの姿

二人は此方に気付きトモへと振り返った


「良い所で会ったよミサカちゃん!次のお店見つけたんだ〜」

「なにトモ、御坂妹と知り合い?」

「うん!この間一緒にケーキを食べた初めて仲間さッ」


ねー!とミサカに振れば、一瞬止まりアナタですか、とミサカは何かに納得していた

二人はこれから本屋へと向かうらしく、来るか?と当麻に言われ、特に用事も無いので着いて行くことに。


「可愛いなぁ!ミサカちゃんも抱けばいいのに」

「ミサカには無理です、と今日何度目かの説明をします」

「でも本屋さんには流石に一緒に入れないから、」

「そうだな、預けるしかないよな?」


猫を抱かしてもらい、目的地へと到着。
微弱な電磁波の所為で、抱くのは無理だと言うミサカに当麻へと視線を向ければ意地の悪い笑みを浮かべていた

どうやら意見は一致した様で、本屋へ入る寸前で黒猫をミサカへ向かって投げる

慌てて猫を受け取ったミサカに笑顔でトモと当麻は店内へと入って行く
そんな二人の背中にミサカは静かに愚痴を零した


「ちょっと心配だから、ミサカちゃんの様子見て来るね」


店内に入ったものの、猫を投げたのは自分
ミサカも心配だが猫も心配
当麻の返事を聞いて出口へと足を進める

出口付近に立つミサカを見つけて名前を呼ぼうとしたら、その更に奥に見知った顔が見えた気がした
人混みの中にいても目立つ姿にトモは首を傾げる


「一方通行?」


小さな呟きに、もう一度見えた気がした方向へ目を凝らせば居ると思った人物は居なかった


見間違え?と思い大して気にもせずにミサカに近付けば表情が強張っている様なミサカと目があった


「ミサカちゃん?ごめんね、怒ってる?」

「いえ、ミサカは少し用事を思い出しましたとミサカは猫を貴方に預けます」

「ちょ、ミサカちゃん!?」


直ぐに戻って来ます、と言ったミサカは路地裏の闇に消えて行った
何処か慌てた様子にも見えたミサカを気にしつつ渡された猫とじゃれる

にゃ〜と呑気に鳴く猫にトモは微笑んだ


「あれ、御坂妹は?」

「用事を思い出したんだって」

「用事?」

「直ぐに戻るって言ってたけど、ちょっと遅いかなぁ?」


人によっての‘直ぐ’とはどれぐらいの時間か分からない
でもミサカの様子は少し変だったと思う
日も暮れ暗いし路地裏って所が余計に心配だ

当麻とトモはミサカを探す為に消えていった路地裏の方へ足を進める

闇へ近付けば近付くほど何か嫌な汗が流れる

別に何も無いはずなのに…
妙に煩い心臓は何か?

少し歩いた先に転がっていたのは、一足の靴。
それを見た二人に緊張が走った

そして更に足を進めて当麻とトモが見たものは、さっきまで一緒に居たミサカ

だが、先程とは全く違う姿のミサカに二人は絶句した
辺りは血の海だった
そしてその中心に既に息の無いミサカが居たのだから…


「美琴ちゃんのとこに行くの?」

「あぁ、何を言ったらいいかなんて分かんねぇけど…」

「うん、一緒に行く」


この短い間に色々な事があった。
警備員に連絡し、ミサカの場所へ案内すれば居た筈のミサカが居なかった事
急に走り出した当麻を慌てて追い掛ければ、そこに居たのは死んだ筈のミサカの姿

同じ声が同じ顔が狭い路地裏を埋め尽くした妙な光景。


御坂美琴のクローン‘妹達’


本当に短い間に色々な事が起こりすぎて頭の中はパンク寸前
目の前の事が夢では無いのかとさえ思えてくる
聞き慣れない言葉が並ぶ中で、思い出すのは、血に埋もれたミサカの姿

昔の記憶が一瞬、フラッシュバックする
他人の血で染めた自分の手を…


「おっきな家に住んでるね〜」

「いやコレは寮だぞ?」


常盤台中学の寮を見上げるトモは、緊張感のカケラも無い声色を発し当麻は転けそうになる。

御坂と書かれたポストを見つけ、呼び出しボタンを押す
だが、当麻は中々ボタンに触れず何かに迷っているので、震える当麻の手を上から掴んで美琴の部屋の番号を押した

御坂美琴は不在だった
インターホン越しに口論をする当麻と相手の人
最終的に中で待ってて下さいと、美琴と相部屋の人が中へと促す


「じゃ、行ってらっしゃい!」


来ねえのか?と当麻に聞かれたが私は上がらず待つことにした

インターホン越しの会話から、私が行けば話が余計にややこしくなる気がしたから
メイン扉を通る当麻の背中を手を振り見送った。

実験。
その言葉には、引っ掛かりがあった

‘新しい実験’
私を救ってくれた一言。

だが、胸騒ぎがするのはもしかしたら…を考えたから
妹達の言う実験こそが、あの時救ってくれた一言、‘新しい実験’じゃないのかって事。


「あっ…当麻!?」

「行くぞトモ!」


思考を巡らせていると、物凄い勢いで寮から飛び出して来た当麻。
私を通り過ぎて行こうとする背中に呼び掛ければ咄嗟に振り向き促される

何が何だか分からず、取り敢えず当麻の後を追った

繁華街を駆け抜ける当麻に黙って着いて行っていると急に止まり出す
何か考えている様で、不意に気付いた当麻の手に持つ紙の束が目に入った


「それなに?」


考えを中断させられた当麻は、言うより早いという感じでトモに紙束を渡す
首を傾げて受け取ったトモは、その束に目を通した。


「量産異能者妹達の運用における超能力者一方通行の絶対能力進化方…」


見慣れない文字が並ぶ中で、一つだけ見慣れた名前があった

‘一方通行’

レポート用紙に書いてある事なんて正直さっぱりだ
美琴の細胞から作られたミサカ達、妹達。
用意された戦場の中で二万人の妹達を殺し絶対能力者へとなる実験。

レポート用紙に目を通し、簡単に頭で整理する

ミサカは、私と初めてを一緒にしてくれた友達
美琴は、あの日会った時からずっと苦しんでいたんだ
二万人の人を殺してまで絶対能力者にあの人はなりたいのだろうか…


「そうか、このプロペラを辿っていけば…」

「当麻先に行って!私は一応確認してから、後で追い掛ける」


レポート用紙を当麻に返し、元来た道へ戻って行くトモ
トモも気になるが、今は美琴を優先させ少しずつ回り動くプロペラを辿って走り出す


「一方通行!!」


トモは、家に帰って来ていた。
一応確認の為に隣の住人の家へいつもの様に侵入

勢い良く名前を呼ぶも返事も無ければ姿も無い
ただ暗闇に包まれた部屋が広がっていた


「やっぱ居ないか、」


部屋を見回したトモは、向きを変え部屋を飛び出した。
空を見上げれば、密かに動く風力発電の為のプロペラ
当麻が言っていた事を思い出しそれを辿って走る


「完璧な部外者が口を出すのもアレだけど、」


美琴もミサカも一方通行も、出会ってまだ日は浅い。
そんな人達に何かを言える立場では無いのは分かっている

私には何も出来ないかもしれない
でも存在してるから
ちゃんと土俵に立てていられるんだったら…

何より美琴もミサカも一方通行も友達なんだからね?


「こーなったら、とことん関わっちゃうもんね〜迷惑って言われても自己満足って言われても…友達は助けるものさッ!」


見えない電磁波に反応して、プロペラの回転が進むにつれて速くなっていた
近いな、と思っていたらドーンと耳を塞ぎたくなる様な音と光が先に見えた

目印を発見したトモは、走るスピードを上げた


「美琴ちゃん!」

「…トモ?」


ボロボロになった橋の上に立ち尽くしている美琴を呼んだ
そんな突然現れたトモに唖然とする美琴


「当麻は?」

「アイツなら…」

「もう行っちゃった?」

「なんで知って…」


顔を強ばらせる美琴にトモは抱き付いた
一瞬、何が起きたか分からなかった美琴は固まる
間に挟まれた黒猫が苦しそうに鳴いた


「美琴ちゃんは私の友達って事でオッケー?」

「急に何を言い出すの、」

「一人で泣いてないで、頼って欲しいって事かな」


身体を離し美琴に笑いかけたトモに眉毛を下げた美琴

何があったなんて聞かない。
私に存在価値があるのなら、困っているのなら助けてあげたい

理由はそれだけで十分だ


「行こう!」


当麻と言い、トモと言い…
お人好しも良いトコって所だろうか


結局はバカ
(ミサカちゃんも影薄サンも待ってなさいよ!)



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]