Comes Up

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「あぁー!キノコくんとカメくんは踏んだらダメだって言ってるのに!?」

「ザコなンざ倒してナンボだろォが、コイツ等はそォゆゥ小動物だろ」


電気も点けずに暗闇の中で光を放つテレビ
テレビ画面から目を離さず、眉間に皺を寄せる者と口を盛大に開けて喚く者、約二名。

画面から目は離さず、口も止めず、コントローラーを動かす手も止めない


「ちっちゃい緑のおじさんが何言ってんのさ!?キノコくんとカメくんよりもちっちゃいくせに!」

「誰のせェでチビだと思ってンだ?赤ヒゲジジィが」

「無差別殺人繰り返す人は持ち上げの刑だ!そして海に落とす刑〜」

「クソッタレ!味方殺すバカがドコにいンだァ?」


愉快な音を立て、プレイヤー緑のおじさん一方通行は逝った
それを横目に勝ち誇った笑みを見せるプレイヤー赤のおじさんトモは、キノコやらカメやらをジャンプで華麗に避けてステージを進んで行く

そんな二人は、仲良く徹夜ゲーム中。
と言っても、強制的にコンビニへ連行されお菓子やジュースを買わされた帰宅後、部屋からゲーム器具一式を持って許可も無く部屋へ侵入したトモの迷惑な行動によりある今の状況

何か文句を吐けば、

‘友達だから気にしなーい’

と笑顔で返される。
本気でバカな女に捕まっていると思う一方通行
色々と面倒で、喋らせると更に面倒なので嫌な顔をしつつ付き合う

学園都市最強もクソもない
この空間だけが平和で平和ボケでもしそうだ
そんな風にさえ思えてくる


「このゲームは、クッパだけ倒すゲームだよ?後のは倒したらダメ!」

「ンなクソゲーあるか、説明書目ン玉こじ開けてみやがれ!」

「説明は聞いたから見なくてもいいもん」

「誰だァ?ふざけた説明したヤツ」

「カエル先生〜!」

「テメェはそっからふざけてンなァ」


皆を助けてあげ、強大な敵‘ボス’だけを倒せばいい。
そうやって少しずつ心のトレーニングをしていけばいいさ
今から罪を全部償うのは難しいからね?
まずは、シュミレーションだね

塞ぎ込んだ子供、トモにそう教えたのはとある有名なカエル顔の医者


「キノコもカメも生きてるんだから守らなきゃ!倒すのはボスのみ!」

「ンな事言ってっから、いつまで経っても終わンねェだろォが。ボスすら辿り着けねェよ」


トモはこのゲームをやり始めて一年半程、経っていた。
だがゲーム中に出て来る‘ザコ’は倒さず最終的に出て来る‘ボス’を倒す事だけしか考えておらず、そんな事でクリア出来る程このゲームは簡単ではない。

キノコやカメは飛んで踏むのを避け進める
トモの間違ったゲームスタイルだった


「コイツ等は踏み潰される為に存在してンだ。だったら容赦なく潰しゃァイイだろ」

「ダメダメ!聞こえないの?助けてーって声が!?」

「聞こえっかよ」

「後で耳掃除してやるわ!耳の聞こえない緑のおじさんは、赤のおじさんが持ち上げて救ってあげるよ〜」


そう言ってテレビ画面では、緑のヒゲが赤のヒゲに持ち上げられてステージを進んで行く図。
一方通行は、トモの言葉にさっき海に落とやがったくせに…と思った
コントローラーを握る手が意味のない物になり、そして二人でやる意味もあるのかと普通に疑問がわく

緑を抱えたまま、キノコやカメを避けながらクリア出来る筈もなく。
画面では、緑と赤が仲良く海に沈み愉快な音を立ててゲームオーバーの文字が浮かんでいた


――――


数日前に一方通行としたゲーム。

目の前に広がる光景を意外と冷静に見ている自分は、あのゲームと今の光景をリンクさせているからか

でもそこには、見た事も無いような一方通行が居た
楽しそうに愉快に狂った様に笑っているのだから
今みたいに約一万人もの妹達を殺していたのかと思うと頭がおかしくなりそうだ


「昔の自分だなぁ」

「え?なんか言った!?」

「ううん、それにしても…」


最強を目の前にして、倒れても何度でも立ち向かって行く姿を見ている事しか出来ない状況に奥歯を噛み締める

助けたいと思っても何も出来ない。

これは、そういう手で実験を止めようとしているのだから
無能力者、上条当麻が一方通行と言う超能力者を倒す事を前提での戦い
仮に力を貸し、纏めて一方通行を倒しても意味の無い戦い

上条当麻の計画を邪魔してはいけないが…


「あんなドエラいモン食らったら…」

風が一点へと集中して出来た、眩い白光に目を細める
光電離気体。
風を操った一方通行はとんでも無い物を手に納めている

流石に黙っている訳にはいかない状況に動こうとしたら、


「止まりなさい、一方通行!」


それは美琴も同じ。
いや、気持ちの問題ではトモより美琴の方が上だろう

先程まで隣に居た美琴は、操車場へと入り一方通行へ恐怖から震える右手を突き出していた

これ以上は黙って見ていられない
一方通行にやられるボロボロの当麻の姿なんて…

紫電をバチバチと放出する美琴を関係ないかの様に見向きもしない一方通行


「ちょっとー!かきくけこなんて言ってる場合じゃないよ!?」


トモだって助けたいのだ。

あんなにも震えた右手を突き出し、美琴が攻撃を放てば簡単に反射され、跳ね返った攻撃は死を意味するだろう

そんな事はさせない、してほしくない
誰にも死んでほしくない


「緑のおじさんは赤のおじさんが救ってあげるって言ったのにー!」

「…あァ?」


両手を広げて更に風の圧縮をする一方通行の耳に聞き覚えのあるセリフと声が入り、眉を吊り上げた


「そんな事してたら救う所かアナタ自体が私の敵になっちゃうんだけど!?」

「なンだァ?ンな時にクソケツの幻聴が聞こえるたァ病気かよ」

「クソケツじゃないトモ!!幻聴じゃないし、早くその眩しい物体しまえ!」


自分に出来る事
それは、少しでも一方通行へ声を届けるコト

この状況でも唯一、一方通行に近付く事の出来るトモは身体を透かして一方通行へと近寄った

巨大な光電離気体の計算式を組みながら一方通行は、聞き慣れたトモの声が聞こえる事でこの場に関係ない余計な奴を思い出していると鼻で笑って飛ばす


「今のクッパはアンタだー!」


結局はどうする事も出来ずに、一方通行の周りで飛び跳ねギャギャアと喚く
この場でそんな事が出来るのは、色んな意味でトモだけだろう…

全く持って一方通行に相手をされない中、美琴は御坂妹へと駆け寄る
それを視界に入れたトモは喚くのを中断して美琴達の元へ走る


「お願いだから、アンタの力でアイツの夢を守ってあげて!」

「私からもお願い!」

「トモ、」

「助けたいけど何も出来ない…私じゃいくら頑張っても止められない、結局は役立たず…でも助けたいの!」


何も出来ないのは悔しい
姿があったって、土俵に立てたって
結局は無力な自分しか居なかった

息をしているのがやっと、立つのがやっと
そんな状態の御坂妹は、縋り着き泣き出してしまいそうな美琴とトモを見た

妹達にしか出来ない事
スイッチ一つで出来上がる、単価にして十八万円の妹達でも助けてあげられるコト

しっかりと届き、胸に響いた二人の声。
それだけの言葉があれば御坂妹はまだ立ち上がれる


「な……?」


特定の電磁波を与える事で回転する風力発電のプロペラ
学園都市にいる役一万もの妹達によって回されたプロペラが風を乱す

一方通行の完璧な計算式の基で空気を圧縮した光電離気体が不規則に揺らぎ、空気に溶ける様に消えていく
そこで一方通行はカラカラと回る風力発電のプロペラが回る音を聞いた

仕組みが分かった今、妹達の方へ振り返れば睨みつけられている様に立つ妹達の姿


「……させると思う?」


殺意を込めて、妹達の方へ一歩を踏み出せば間に入った美琴の姿
邪魔な美琴から先に殺すと決めた一方通行は更に一歩を踏み出した瞬間、真っ赤な瞳を見開いた


「更にさせないよ?」

「…オマエ、」


御坂妹と美琴が立つ前に見知った存在が間に、視界に入った

それは先ほど聞いた声
幻聴だと終わらせた奴の声
この場に似つかわしく無い笑みをしたトモが立っていた


友だけど敵はアナタ
(何も出来ませんが、盾にならなれますけど!)
(オイオイ、本気で素敵に病気ってかァ?)



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