Comes Up

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「オイオイ、三下所かクソケツまで居やがるじゃねェか」

「良かったね!幻聴じゃないから病気じゃないよ?」


御坂妹と美琴の前に庇うように現れたトモに標的を変えた一方通行
誰であろうと、それが全く関係のないトモであろうと前に立ちはだかり邪魔をするのなら殺す相手に例外は無い


「大人しく家でタマゴでも加えてりゃ良いモンを、わざわざ死にに来るたァ、オメデタイヤロォだ」

「卵が無かったから買い出しってね〜!それに…殺されるのはアンタ」


誰だコイツは…
一方通行は背筋が凍る感覚に陥った
おどけていた表情から一変して、一瞬の内に何から何まで自分の知らないトモがそこにいたのだから

‘殺されるのはアンタ’

何をほざいてやがると脳は思っていても身体は何故か強張る。
それはトモの異様な殺気の所為か…
何にしても突然現れた女なんぞに殺される気も無い

まずはトモから殺す。
そう決めて一方通行は一歩を踏み出すが、


「…………、」


背後から物音がした
一方通行は恐る恐る後ろを振り返る
そこには、一方通行の作り出した暴風に吹き飛ばされ電柱に身体を激突させた筈の上条当麻
最早動く事すら出来ない筈の身体を起こして立ち上がる姿

上条当麻にとって今の状況を理解出来る頭は持ち合わせていない
だが、妹達を殺そうとし盾になるように御坂、そしてトモが一方通行に立ちはだかっている

ボロボロの身体を引き起こす理由はそれだけで充分だった


「…最っ高に面白ェぞ、オマエ!」


普通に考えて、重傷を負った上条当麻なんて一方通行の手に掛かれば瞬殺だろう
放っておいても大した事にはならないだろうが、一方通行は上条当麻に背中を向けてはならない気がした
拳を握り、足の力の向きを変えて地面を蹴り物凄い速さで当麻へと距離を縮める


「歯を食いしばれよ、最強」


真っ直ぐに弾丸の様に当麻の顔面へと両手を持って行く一方通行

触れられれば最後。
一方通行の必殺技を上条当麻が身を沈めれば右手は頭上を舞い、左手は当麻の右手によって弾かれる

一方通行は心臓を凍らせた。
二重の必殺を避けられたのだから

密着する程の至近距離で上条当麻は笑う


「俺の最弱は、ちっとばかし響くぞ」


瞬間、上条当麻の右手の拳が一方通行の顔面へと突き刺さった
一方通行の身体は地面へと投げ出され、ゴロゴロと転がっていった


「あくせら、れーた…」


一瞬の内にして終わった戦い。
一部始終を見守る事しか出来なかったトモは倒れて行った彼の名前を静かに口にした


――――


「おはよー!」


視界いっぱいに最初に飛び込んできたのはトモのドアップ。

覗き込み一方通行が起きるのを待っていたトモは、気絶し目を覚ました一方通行へ開口一番にまるで目覚めの挨拶かの様に笑顔で迎えた


「大丈夫?立てる?」

「つかよォ、何で居ンだよ」

「一緒に帰るために決まってんじゃん!」


地面に放り出していた身体をむくりと起き上がらせた一方通行は、今一番の疑問を口にした
先程までこの場所が戦場だったと言うのにトモは何もなかったかの様に返す

そして真正面からジッと見つめられ、


「今日は反射しないでね?」


と、首を傾げて一方通行に言う

返答せず怪しむ様に片眉をピクリと動かした一方通行にフワッとトモの髪の毛が鼻を掠めた

そして何年ぶりかに感じた人肌に目を見開く

デフォは反射に設定している能力をトモに言われるがままに解除すればトモが抱き付いていた


「殺すなんて言ってごめんね」

「あァ?」


この体勢にどう接していいのか分からない一方通行は、取り敢えず後ろで地面に手を着き体勢を安定させる
そうすれば、自身の首もとに居るトモの小さな呟きを拾える事が出来た


「結局私は殺す事しか知らないの…でも、それでも助けたかったんだ」


トモの発言には、たまに理解出来ない時がある

例えば、今がそうだ

何も言わずに夜空を見上げてはトモの話を黙って聞く


「他人の血で手を汚すのはツラい…アナタのやった事は悲しい事だって自分でも分かってるんでしょ?」


それが例え己が絶対能力者になる為の‘実験’だったとしても
人を殺してもいい理由になどならない

そんなモノは心の何処かで分かっていた。


「オマエも本っ当に物好きな奴だな」


こんな何処からどう見ても悪役でしかない自分に
助けたいとかごめんだとか…

掛ける言葉間違ってないか?と問い質したいぐらいの勢いだ

アイツ等が去った今でも居座り続け、何かから何まで理解出来ない
そんな疑問を一言で済ませた一方通行にトモは身体を離し笑って言った


「だって友達って言ったでしょ?一方通行は私の大好きな友達さッ!」


いつもの一方通行も知っているトモがそこには居た。


「そォかよ」


そうなれば、今のトモには嫌みも何も効かない
視線を合わせた一方通行はフンッと鼻で笑い適当にあしらった


「ドコ行くの?」


座っていた腰を立たせ、歩き出した一方通行の背中に声を掛ける


「帰ンだろ?置いてくぞケツ女」

「うん!帰ろう影薄サン」


面倒臭そうに振り返り言う一方通行に立ち上がり駆け寄った

実験と戦いの名残から足場の悪い操車場を並んで歩く
隣では楽しそうに喋るトモの姿。

口数の減らないトモに一方通行は聞いているのか聞いていないのか、BGMの様に流れるトモの声に適当に相槌を打つ


「スーパーマンで帰ろうよー」

「ドコのヒーローだっつの」

「風でビューンって飛んでたヤツ!私も乗りたーい!だから、ハイ」


立ち止まり両手を一方通行に差し出す。
当麻との戦闘中に風のベクトルを操り飛行していたアレの事を言ってるらしい

つまりこの差し出された両手は、トモを抱えて飛べと言う事か


「愉快なグチャグチャのトマトがお望みですかァ?」

「望みは鳥みたいに飛びたいな〜!」

目をキラキラと輝かせるトモに一方通行は深い溜め息を吐く
冷やかな視線を送り、トモを無視してまた歩き出す

要は面倒臭いのだ。

期待の眼差しをスルーされ放って行かれたトモは立ち止まっていた足を動かし慌てて隣に並び歌う様に話し出す


「ただのお隣サンだけど、」

「あン?」

「ドコに行っても隣の家にはアナタが住んでてほしいな」


付き合いは浅いかもしれない
もしかしたら一方通行にはウザくて変な女って思われているかもしれない

それでもね?


「私は一方通行のお隣サンでいたいな」


突然始まったトモ説にいきなり過ぎて反応がとれない

やっぱり変な女だ。
それでいてまだ続くらしい…


「何があっても一方通行を信じる事に決めた!」

「ハイハイ」

「だって友達第一号だもんねッ!」

「ハイハイ」

「だからもう手を汚さないでね…」

「………ン、」


最後は自身にも言い聞かせる様に。
トモは悲しそうに一方通行に笑いかけた


一方通行の敗北により実験は中止。
トモを隣に一方通行の日常が始まるのだった


やっぱりお隣サン
(じゃ、帰ったらクッパ倒そー!)
(アホか)
(一緒にトレーニングだね)
(なンのだァ?俺は寝ンぞ)



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