Comes Up

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「おはよーごさいまーす!ってミサカはミサカは二人に聞こえるように元気良く挨拶してみるんだけど…」


ピンッと立つアホ毛をしならせうーんと唸り腕を組む打ち止め
本日三度目となるおはようごさいます。
だが、三度目もそれに対する返事は返ってこず…

どれだけ大きな声で挨拶しようが、ソファで眠る一方通行とベッドで眠るトモはピクリとも動かない


「ヨダレが垂れてるよってミサカはミサカは気持ちよさそうに無防備なトモに忠告してみたり」


薄く開きタラリと口から垂れるトモの口許を指差し覗き込みながら言う打ち止め
だが返事なんて返って来る筈もなく、頬を膨らませる打ち止めは一方通行を覗きに行った

トモが目を覚ました時には、テーブルクロスに身を包んだ打ち止めの姿が最初に飛び込んで来るのだった


――――


「苦楽を共にした毛布を取られちゃったのってミサカはミサカはアナタを睨みながら言ってみたり」

「寝ている間にそんなハレンチ事件が起きてたなんて」

「薄汚ねェ布のナニが苦楽だァ?」


時刻はお昼二時を過ぎた所
おはようを通り越しこんにちはの時間帯になった頃

打ち止めは寝ぼけた一方通行に唯一の服、毛布を取られた話を必死にぴょんぴょん飛び跳ねながら説明していた

そんなこんなでやっと起床しお腹も空いた所でファミレスへと向かう三人
まさかエプロン装着の家庭的一方通行が見れる筈もなく
その前に台所に立てる状態でもない


「アナタの髪って天然さん?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「あン?」


不意に打ち止めが一方通行に聞いた
トモも気にした事は無かったが言われてみればと思い彼の髪を見る


「だからその髪ってミサカはミサカは指差してみたり。ついでにその赤い目も生物的にどうなのよってミサカはミサカは小首を傾げてみたり」

「アクセラの親って実はうさぎサンだったんじゃない!?」

「バカは黙ってろ」


隣で目をキラキラさせて真剣に言うトモに冷ややかな目を送りつつ、無視しても良かったのだが打ち止めは騒ぎそうだ
トモにしろ勝手に妄想を始めバカ発言を連発しそうなので適当に答える
自身もよく分かっていないが、力の弊害で紫外線を反射している事
色素は紫外線から身を守る為の物
だが彼の場合、余計な紫外線を反射している為身体が色素を必要としていない訳らしい


「それって理屈とかあったのねってミサカはミサカはビックリしてみたり」

「うさぎサン説をしっかり否定したお話だね」

「オマエは俺がンな小動物から生まれたよォに見えンのか?」


それから暫く両隣からギャァギャアと騒ぐ声をBGMに考える
一連の会話は通常の自分の思考回路からズレているような気がすることに
トモは放っておくとして、量産型の妹達との会話はこれまで一度も成立した事が無かった
機会のような発言しかしない妹達
それに会話が成立する筈もなく一方通行自身も思っていない
妹達とのやり取りは最後まで成立する事はなかった


「おーい、一方通行?」


あの‘一戦’から何かが変わった
だが、何が変わったんだろうか…?


「もしもしもしもーし?」

「ぼんやりして何か考え事?ってミサカはミサカはアナタの顔を覗き込んでみたり」

「性別はもう間違えないから怒るなよ〜」

「別に怒ってねェ。オマエそのカッコで店ン中入れンのかヨって考えてただけだ」


両サイドから顔を覗き込まれる一方通行は我に返った

余計な紫外線を反射している為、外部刺激も少なくホルモンバランスが崩れ男か女か分からない体型になった話をした
それを打ち止めとトモにからかわれ冗談でどっちだ?と聞かれた事を根に持っていると勘違いしたトモは一言謝った

そんな事はどうでもいいのだ。


「…もしかしてそれでミサカだけ店側から拒否された場合はどうしたらいいの?ってミサカはミサカは恐る恐る聞いてみたり」

「寝ろ」

「大丈夫、毛布も服も変わりないさッ!もし入れなかったら一緒に寝てあげるねー」

「最早寝る以外の選択肢は無いのねってミサカはミサカはヤケクソになってみたり」


キャッキャとはしゃぐ二人を無視し一方通行は空を眺めた

会話は成立していた。
普段なら考えもしない思考を漂わせているのは、少なからずトモの影響もあるのだろうか…

見えない何かが変わり始めようとしていた


――――


結局打ち止めは店員さんに笑顔で中に通された
若干引きつっていたのは内緒の方向で…

窓際の席に案内され、椅子に腰掛ける
隣でぼんやりしていた一方通行が、天井亜雄とかなんとか呟いていたが彼の見つめる先を見ても誰も居なかった
その事に気付かず打ち止めは目の下を擦り、左右に揺れていた
寝ても疲れがとれないらしい


「ご飯…んーケーキにパフェも捨てがたい」


メニューを見ながら唸る。
少し前に注文は済ませたが、未だに睨めっこをするトモ
会話には参加せずメニューと会話…


「強さ故の孤独、その感覚はミサカには理解できないし他の誰にも分かってもらえないと思うってミサカはミサカは予測してみたり」

「意味が分かンねェ質問だなオイ。ハイっつったら頭撫でて慰めてくれンのか?」


小難しい話を打ち止めと一方通行がする中で、首を突っ込んでおいて今更なのだが部外者の自分は聞いても良いものなのか?と格闘する
なるべく聞かない様に見飽きたメニューを見返す
耳栓なんぞをしている訳でも無いので聞かないでおこうと思っても会話は耳に届いてくる


ぶっとんだ回答ばかりを打ち止めに返す一方通行
そのぶっとんだ発言に学校でのコミュニケーションは取れるのか?と質問する打ち止め
だが、そんな物は必要無い
クラスには彼一人なのだから
特別クラスだと言われ学校に一人、誰も居ないクラスに一人

彼の気持ちなど分かる訳が無い…
私は学校にさえ行った事が無いから尚更分からない
でも少しなら分かる、一人って言うのはとても辛い事だ


「…オイ、ナニやってンだ」

「頭撫でてる」


一方通行の一言に静粛が漂った
それを破ったのは、今まで会話に参加せずメニューと睨めっこをしていたトモ
その光景を打ち止めは、口をポカンと開け目をぱちくりさせて見ていた


――――


「わーい、ミサカがミサカが一番のり」

「二番のりもやっときたよー」


暫くして漸く届いた料理を店員がテーブルに並べて行く
打ち止めの料理が届いた直ぐ後にトモの料理も到着

待ちに待ったご飯に喜ぶ二人。
そんな中、暖かいご飯が初めてな打ち止めは湯気が立つ料理をウキウキしながら見つめていた

実験が中止になって培養機から放り出された打ち止め。
あの実験から結構な日にちが経っていた
打ち止めが‘初めて’だと喜ぶ中、その発言に胸がキューンと痛くなる


「いっぱいお食べ!レータのオゴリだから大丈夫、初めて満喫しよ…!!」

「…くっだらねェ」


何かを感じ取ったトモは‘初めて’の気持ちが痛い程分り胸の前で手を合わせ噛み締めて言った

料理が来てから数分経過。
湯気が立つ料理も初めてだが一緒にいただきますをするのも初めてな打ち止め
みんな揃ってやる為にトモも勿論一緒に待つ

そして十五分後、やっと揃い冷めた料理を目の前にそれでも嬉しそうにいただきますをする打ち止めとトモ


「大変!お腹のご調子がお悪いようだ…いってきます」


店に入って一時間ほど経過
トモはわざとらしくお腹を押さえ席を立つ

レトルトだろうが何だろうが美味しくご飯を食べていたが、先程より聞いてはいけなさそうな話しが一方通行と打ち止めが交わしいる

珍しく気を使ったトモは御手洗いへと直行


「みんな幸せになればいいのにね、」


殺されるが側、殺す側。
そんな奇妙な二人が今一緒に居ること

そしてトモを救ってくれた悲しい‘実験’
今こうしていられるのは少なくとも、この実験が行われなかったら未だに誰にも姿を映してもらえない透明人間のままだったかもしれない

直接関わった訳では無いがトモは思った
一方通行や美琴に妹達、打ち止めに少しでも恩返しが出来たらいいな…と。


「そろそろ行くか!」


手を洗い自分の頬をパンッと両手で叩き意気込む
御手洗いへと数分滞在した後、そろそろ終わっただろうと思い二人の座る席へと戻って行った


「ミサカ?」


席へ帰ると呼吸を荒くし机に突っ伏す打ち止めの姿
そこには一方通行の姿は無かった

疑問符を浮かべ、見るからに状態のおかしい打ち止めの隣に腰を下ろす
話し掛けても唸り声しか返って来ず

席を立った数分の間に何が起きたのかさっぱり分からないトモは、一人であたふたと…

そして、


「……だ…れ……?」


肩を叩かれ、そちらに振り返れば見知らぬ人が一人
振り返ったと同時に布を口許へと当てられれば、途端に襲った睡魔

トモはそのまま意識を手放した


行き先は?
(そォ言えばケツ女置いて来ちまったなァ)



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