Comes Up

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「…ミサカ!?」


意識を失い目が覚めた時には車の中だった
ブツブツと運転席でボヤく天井亜雄
助手席で沢山の線に繋がれ荒く息をする打ち止め
薬によって眠らされ一緒に連れて行かれたトモは、状況を理解出来ないでいた


「クソッ、起きたか」


実験の凍結と共に多額の借金を背負った天井
妹達の司令塔、打ち止めを使い彼女にウィルスコードを上書きし、ミサカネットワークを介して学園都市の外に居る約一万人の妹達を無差別の反乱兵器にする為に外の連中、学園都市を良く思っていない敵対勢力メンバーと手を組んだ


「ミサカに何したの!?」


ウィルスコードを上書きしたと同時に培養機から逃げ出して一週間
司令塔として未熟な身体で調整された打ち止めが一週間も外へ居れば死滅してもおかしくない状態
本来なら上書きした時点で外へと逃げていた天井だったが、培養機から逃げ出すと言う思わぬ誤算が生じた為にそれが出来なくなった
打ち止めが死んでしまえば、世界中に散らばった妹達にウィルスが感染しない


「ちょっと人の話聞いてますか!?そんで足のロープと手錠外しやがれー!動けませんよ!」


更に思わぬ誤算で外部からの侵入者により、第一級警報が発令され学園都市の外にすら出られない
天井の計画は崩れに崩れ、身動き出来ない状況化でクーラーの大変効いた車内の中にも拘わらず異常な汗をかいていた


「完全無視ですか!?無視ですね?もー怒った、こんな拘束具は私の能力で簡単に……ってアレ?」


この計画が失敗すれば天井はきっと生きてはいられない
学園都市では多額の借金、計画が失敗すれば敵対勢力から抹殺されるだろう

双方から板挟みされた天井の居場所は既にない


「どうして能力が使えないのさ!?ちょっとオジサン、少しぐらい反応してくれてもいいと思うんだけどー!?」


一方、状況が全く理解出来ていないトモは一人社内で喚いていた
逃げられない様に付けられた拘束具
トモの能力なら簡単にすり抜けられる筈だ

だが、何故か能力が使えない
自身を透明な姿へと変えられない


「…少しはっ、黙れ…!」


パァンと社内に発砲音が響き渡った
正常な脳を持ち合わせていない天井は、黙らせる為に所持していた銃でトモの腕を撃ち抜いた


「最終信号が死ねば計画は丸潰れだ…そうなれば俺も…お前は手土産に一緒に外へ連れ出し俺、が脳みそエグって…研究してやる…それまでその煩い口は閉じておけよ、な…」


引きつった笑みで天井は言った

声を出す暇も無く撃たれた腕に痛さで顔を歪める
かけられた手錠が邪魔をして流れる血を止める事も出来ない

能力が使えないのは何故?
それすらも分からない
このままでは、打ち止めも危ないし自分もただでは済まない

ここから逃げ出して、打ち止めを助け出して…
思う事は沢山あるのに、自由に身体は動かず能力も使えない

先の未来を想像すると背中に悪寒が走った


「頼む、保ってくれよ…」


計画を遂行させる為、天井は打ち止めの生存を祈る

ブツブツと再び呟く天井を後ろから眺める事しか出来ないトモ
文句の一つでも言ってやりたいが、言われた通り本当に黙ったトモは奥歯を必死で噛み締めた

撃たれた腕からの出血は止まらない
流れ続ける血は、トモの意識を遠ざけていく

暫く耐えたが長くは保たず…
打ち止めの妙に荒い呼吸を耳に焼き付け、何も出来ない自分に悔しさを残しトモの意識は飛んだ。


――――


一方通行に出来る事は二つ

一つは、街の中に潜伏している天井を捕らえウィルスの仕組みを吐かせる事
もう一つは、起動前のウィルスを抱えた打ち止めを回収して保護すること


「笑えよ、どォやら俺はこの期に及んでまだ救いが欲しいみてェだぜ」


以前、トモが言った
素敵な能力だと、手を差し伸べれば助ける事が出来ると

そんな事出来る訳が無い
例え出来たとしても否定したかった
今更、この能力で助ける行為が出来るなんて思いたくなかった


「ええ、それはそれは大いに笑ってさしあげましょう」


レストランで息を上げた打ち止めを置いてきたのは、自分では何も出来ないと判断したから
出た足は自然と研究所へと向かっていた
それはかつて、実験の為に二万人者妹達を用意する為に建てられた研究所
一室には書類の山に埋もれた芳川の姿があった

そして最終信号、ウィルスコードの話を聞いた


「キミの力は、大切な誰かを守れると言う事を」


この瞬間、一方通行は一方通行で無くなったのかもしれない
人を傷付ける事にしか使い道の無かった能力を助ける為に、守る為に使おうとしているのだから

彼は打ち止めを保護する為に研究所を後にした





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