Comes Up

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「何ですって?天井が最終信号を連れて行った?」


最後に別れたレストランへ行くと、打ち止めとトモの姿は見当たらなかった
店員から話を聞けば、一人の男が身内だと言い連れ出したそうだ
連れ出した男は嫌って程に検討が付く
昼間近くでウロついていた天井しかいない

何より打ち止めには身内など居ない
知ってる限りではトモにも居ないはずだ


「アイツまで居やしねェ、クソケツの事だからよォ?上手くツられて着いて行ったってクチかァ?」

「アイツってトモ?そう一緒に居たの、あの子も、か…それも面倒な事になったわね」

「あン?」


何処か言葉を濁らす芳川に電話越しで眉を顰める

実験中、たまに交流の合った芳川へトモの話を聞いていた事があった
その目は研究所の目そのもの
自分の犯した罪に絶望し逃げ出したトモの研究を出来る者は居なくなった

天井はそんな原石が近くに居る事に大変興味を持っていた


「ヤツはまだ街の中に居るはずだ。なら、ドコに居ると思う?」


運は二人に向いていた
既に外へと逃げていてもおかしくない状況だが、第二級警報が発令されている為に学園都市の出入りは出来ない
そうなれば、天井はまだ街をウロついている筈だ

一方通行は芳川に問う
いくら範囲が狭まったからと言って見つけ出す事が簡単になった訳ではないが、


「人間ってのは余裕を失う度にドンドン行動が単純になっていくモンなンだぜ」


一方通行は一つの建物の名を口にした
真っ先にそこへ行っていただろうが、警戒している筈なのでまず行かないだろう

だが、天井は今窮地に追いやられている
余裕の無い状況だからこそ…

ニヤニヤと笑いながら建物へ向かって一方通行は歩く
そこはかつて、超能力者‘超電磁方’の量産能力者の開発を行っていた施設だった

超電磁方の量産能力者開発の責任者だった天井
余裕のない単純な行動、だ。


――――


「落ち着けよ中年。みっともねェつっの」


そんな訳で施設へとやって来た一方通行は、青いスポーツカーを発見する
重圧から板挟みされ冷静さの欠けた天井は目の前まで来た一方通行に向かってアクセル全開で突っ込んだ
当然な話、それしきの事でどうにかなる訳も無く
車の方がぐしゃりと凄まじい音を発てて潰れる

最後の悪足掻きか車から逃げ出そうとする天井に、一方通行はバンパーを軽く蹴飛ばした
そうすると、ドアに挟まれた天井はピクリとも動かなくなり地面の上へ崩れ落ちた


「クソガキが、手間かけさせやがって。オマエまでナニ一緒に捕まって…オイ、マジかよ」


一方通行は助手席を開けた
毛布にくるまれ、ダラリと身体を投げ出した打ち止め
後ろには衝撃で崩れたのか座っている体制から横に倒れたトモ


「まさか今ので?違うな、こりゃ撃たれたンかよオイ」


打ち止めも気になるが、後ろでご丁寧に拘束され腕から生々しい赤を現在も溢れさせるトモも大概気になる

取り敢えず、打ち止めの保護も完了し彼にやれる事はここまでな訳で
今すぐに出来る事と言えばトモの拘束具を解いてやる事、か


「………あくせ、ら…?」

「間抜け様のお目覚めかァ?」


手に神経を集中させ、手首を覆っていた手錠を破壊と同時に薄く目を開けたトモ
足のロープも解いてやれば、腕が痛むのか顔を歪めている


「だっこ」

「あァ?」


そう言って一方通行に向かって無傷の方の腕を伸ばすトモ
緊張感のクソも無いトモを無視しようかと思ったが、今の彼女の姿では、どうやらそれも出来そうに無い
腕を引っ張り起こしトモを抱え車から下ろしてやる
一瞬、一方通行の首に回した腕をギュッと強め、


「…こわかった」


と、消え入りそうな声で呟いた。
何て言葉をかけていいか分からず一方通行は聞こえていないフリをした


「ミサカは?」

「まァ、とりあえず保護完了だな」


良かったと何とか無事な打ち止めの姿を確認して、トモは再び意識を飛ばした
四時間程、猶予のある打ち止めより先にトモの方がくたばるんじゃないか?と思ったり

取り敢えず二人も無事に保護した所で携帯を取り出し芳川へ二人の無事を連絡した


――――


学園都市最強の超能力者。
人を傷付ける事にしか使い道の無かった能力
一万人弱の人を手に掛けたその手で、大切な者を守れると証明する為に

格好の良い主人公に等、なれる訳が無いと選んで進んできた道
それを彼は自ら破った結果が目の前には広がっていた


「……あ、くせら…れ…た?」


三度目の目覚めは、世界が変わった様に静かだった
少し視線を逸らせば、培養機の中で眠る打ち止めが見えた
近くで天井が、そのすぐ側でいつ来たのか芳川が倒れていた
一方通行は、トモの上で…

三人の共通点。
真っ赤な鮮血を流していること


「こんな漫画展開…私は期待してない、よ?」


トモは一方通行の服を震える手で掴み言う

自身の左腕はドクドクと波打つように痛んだ
錯乱した天井によって撃たれた腕からは血が止め処なく流れる
だが、上に覆い被さり倒れる彼の額からはそれ以上の量の赤がよく知る一方通行の顔を埋め尽くしていた


「なに…し、てる…の?」


真っ赤に染まった白い彼からの答えは返って来なかった


いまもユメのなか
(変な夢…でも、見てるんだよね?)


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