Comes Up

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「起きたかい?」


目が慣れていない所為か眩しさに顔をしかめた
段々と慣れ始めボヤつく脳を必死に起こし、最初に飛び込んで来たのはカエル似の医者だった


「…カエルせんせ?」

「久しぶりだねトモ?それにしても君を治療する日が来るなんて思いもしなかったさ」


心に病を抱えたトモは看た事がある
だが、怪我人となって治療するとは思わなかった


「どうやら首輪が演算の邪魔をしていたみたいだね?」


能力が使えなかったのは、眠っている間に天井に付けられた首輪の所為
微弱な音波でも発していたのか、詳細は不明だ


「……あぁ!…っていだァッ!?」

「人の話聞いてたかい?仮にも撃たれてるんだからね、暫くは安静にするんだよ」


ぼーッとするトモにそれとなく説明していたカエル似の医者の話を聞いていたのかは謎だが…
虚ろな目を大きく開き、ベッドから飛び起きた彼女は反動で天井に撃たれた腕が響いた腕に嘆くトモにカエル似の医者は呆れたのは言うまでもない


「みんなは!?ミサカは助かった?よっしーは大丈夫?あの人は?一方通行は無事!?」


だが、トモからしてみれば腕の痛みなんてどうでもいい
あの後どうなったのか
息をあげぐったりしていた打ち止め
胸から真っ赤なモノを流し倒れていた芳川
自分の上に覆い被さり喋らない一方通行

トモは先の記憶が無い
意識を再び失ったか、どうなったかを…

飛び起き食い入るように一気に問い質したトモにカエル似の医者は一つずつ疑問を解いてやった


「ミサカはあの女の子だね?心配ない、ウチにも似たような子を一人預かっているからね。御坂妹さんと言ったね」

「ミサカちゃんも居るの?でもミサカが大丈夫で良かった!」

「二人も無事さ、僕が執刀したんだからね?助からない訳がない。ただ白い彼の方は…」


その瞬間言葉を失ったトモは、少し黙り込みベッドから抜け出し病室を飛び出した


――――


「一緒にケーキ食べるんだからね、早く元気になって行こうね」


培養機の中で静かに眠る打ち止めに声を掛ける
返答は返ってこないものの、打ち止めが笑った気がした


『約束だよってミサカはミサカはトモもうちょっと待っててねケーキの為に早く起きるんだから』


返答は出来ないがトモの声を確かに拾った打ち止めは、心の中で思う
そんな意味を込めた打ち止めの笑顔はトモにもしっかりと伝わる

培養機の打ち止めに向かって頷き笑顔を見せ、部屋から出て行った


「久しぶりに会ったのに寝てるなんて寂しいのさッ!起きたらいっぱい話聞いてね?人と話せるって幸せだね」


術後の芳川の病室に来たトモは、これまた返答が返って来る筈のない芳川に話し掛ける

数ある研究者の中でも心を許せた唯一の人
姿の無かった八年間を話し相手になってくれた
学校の先生になりたかった芳川は、そんなトモを生徒にでも見立てていたのかもしれない


「ゆっくり休んでね」


どんなに間違った実験に関わっていようが、結局は甘い大人…

――――


「ミサカちゃん?」

「あぁ、あなたはトモですかとミサカは少し久しぶりの見知った顔に頭を下げます」


病室を間違えたのか、居ると思っていた人の姿は無く代わりに居たのは培養機の中に浮いた妹達、検体番号10032号、御坂妹


「こんな所で何してるの?」

「休憩中、と言う表現があなたでも伝わるはずですね、とミサカは優しく丁寧に簡単に説明してみます」


やっぱり素敵にバカにされているのだがトモには全く通じない
休憩中かー、と素直に受け止める

ついでに今の状況、御坂妹は培養機の中に生まれたままの姿で居ること
つまり真っ裸な状態だ
それについてトモは全く気にしなければ、勿論、御坂妹も気にする筈もない

何だか奇妙なやり取りだった


「あなたの取り柄は笑顔じゃないんですか?とミサカは唐突に切り出してみます」


それは本当に唐突だった。
御坂妹にとってトモの存在は命の恩人と言って良いほどの存在だ
妹達はミサカネットワークを共有し、一人一人の妹達に何が起こったかも把握している

初めての友達になってくれたのはトモだ
あの操作上に身体を張って助けに来てくれたのも
上位個体を家に上げたのも、研究者の手から恐怖を恐れず立ち向かってくれたのも

トモはバカかもしれない
だが、妹達の中では笑顔の絶えない人と言う情報が通っている

それが、目の前で泣き出しそうな顔をしている
そんな人から笑顔が消えているのは何だか嫌だなと御坂妹は思った


「似合わない顔をしているあなたに一つトモの疑問を解いてみようと思います、とミサカは助言してみます」


淡々と話す御坂妹にトモは顔を上げて首を傾げ、耳を傾ける
知らずの内に俯いていたようだった


『コイツに汚れた世界は似合わねェ、』


打ち止めのウイルスコードを正常に正すため、自らが学習装置となった
その間に意識を失ったトモは地面よりかはマシだろうと運転席へ座らせていた

それが間違いだった様で、暫くして意識を取り戻した天井はトモを捕らえ握られた拳銃は彼へと向いていた

一方通行は、打ち止めの脳内の信号を操るため全力を注いでいるので‘反射’に力は割けない

下手に手を出すとトモも危ない
そして、この手を離せば打ち止めの脳を焼き切ってしまうかもしれない
何より自分が撃たれる

本能は二人を捨て己の身を守れと言っている

だが、彼は守ったのだ。
打ち止めのウイルスコードを正常に書き換え、トモを天井の手から解放した

自分の演算能力と引き換えに…


「おーい朝だよ!起きてー!って起きるわけ無いか…」


天井に撃たれてもなお手を離さなかった一方通行は、ギリギリの所でウイルスコードを書き換え、致命傷を負う前に反射を取り戻していた

計画を狂わせた張本人、打ち止めへ引き金へ手を伸ばし発砲した銃弾
それは、死んだと思っていた一方通行により反射され天井の右手をエグった


「起きたらいっぱいレータにお礼言わなきゃね」


打ち止めを庇うように立った一方通行は考える
天井の手の中にいるトモは銃口をあてがわれ、引き金を引けば終わりだ

足はガタガタと震え、今にも後ろへ倒れてしまいそうだった

今さらな事は分かっている
誰かに救いを求めようなんて、誰かを助ければ救われるなんて。
間違っている事ぐらい…


『このガキが、見殺しにされて良いって理由にはなンねェだろうが。俺達がクズって事が、このガキが抱えてるモンを踏みにじっても良い理由になるはずがねェだろうが!』


打ち止めも、


『コイツだってなァ、確かに俺と似たような境遇に居たかもしンねェが、見りゃ分かンだろうが。テメェのエゴで断りも無しに勝手に闇に引きずり込もうとしようなンざ、ふざけンじゃねェ!』


トモも、

二人を殺して良い理由はどこにもない

これが意識を手放していた間に起こった真相。
10032号、御坂妹からの疑問に対する答えだった

意識が落ちる寸前、大技を出す余裕も無い彼が選んだ方法は最短距離の直進
逃げ腰に徹した天井のが方が優位に立ちトモを離してしまったが命は助かる

最強の人触れを外してしまった一方通行は、離されたトモを受け取ったは良いが、そのまま暗闇に落ちていった

助手席の少女を、自分の下に居る少女を最後に映して…


――――


何時間、いや何日間。
何度も落ちそうになる瞳を必死で開き、耐えきれなくなったらほっぺたでも摘んで頑張る

密かに動いたりするものの、中々起きてはくれない

自分も一応怪我人で、痛み止めの薬を飲んだりしている訳で身体は睡眠を欲しがっていた
そろそろ限界が頂点に達した時、やっと主は目覚めてくれた


「………ぉ、ぉはょぉぉぉ」


見知らぬ天井、久しぶりの光に慣れない目蓋が重い
加えて何処から声を出しているんのか、トモのドアップ。

一方通行はそんな光景を最初に映した


「………オマエ、」

「一方通行」


目の下に大きな隈を作るトモは、ベッドの上にぶっ倒れた

一方通行には到底着いていけない状況
すると数秒後、規則正しい寝息が聞こえると共に徐々にトモの身体は透けていき寝言の様に呟いた


ありがとう、と
(アナタが起きたら一番最初に絶対に言いたかったのです)
(…クソケツが化けて出やがったってかァ?)



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