Comes Up

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本日の天気、晴れ
清々しいほどの快晴だ。
そんな暖かく照らす太陽にも負けず劣らずの笑顔を見せる者、約二名


「なんで髪の毛伸ばしたの?ボーズレータ可愛かったのに〜」

「ツルツルピカピカ!ってミサカはミサカは…プぷッ、吹き出してみる」

「あの姿で第一位って言われたらね…ブッ、ミサカが笑うからつられたぜ」


怪我人な訳であり頭蓋骨の損傷
手術に邪魔な髪の毛は一掃しなければいけない
とってもとっても貴重な学園都市第一位の姿に決して笑うまいと堪えていたが、思い出し笑いと言うヤツだ

吹き出してしまったのが引き金となり病室には二人の笑い声が響き渡った


「殺す、今すぐブッ殺す!」


眉間に皺を寄せ、青筋を立て本当に今にもやりかねない最強様
しっかり能力を使い、すっかり元通りになった髪の毛は以前と比べて少しスッキリとしていた


「トモトモ!!SOSなのってミサカはミサカはこの辺に居るだろうと推測して手をパタパタと慌てて助けを求めてみる」

「あー残念、私はその逆に居るのさッ!」

「オマエのそのイカレた能力が解けたら覚悟しとけよなァ?お望み通りブッ殺してやっからよォ」


病室で戯れる(言葉は悪いが)三人に見えるだろう
だが実際は、端から見ればベッドの上で寝そべる一方通行とその周りであたふたとする打ち止めしか居ないのだ
そして何処からか聞こえるトモの声
見る人からすれば、何とも奇妙な光景だった
二人は幽霊とでも会話をしているんだろうか?と聞かれてもおかしくない

では、もう一人喚くトモはどこに居るのか?
答えは簡単だ
打ち止めの丁度隣に突っ立っている
因みに今の姿は打ち止めを抱き締め一方通行からの攻撃に備えて守っている…らしい


「所でどうしてそんな事になってるのってミサカはミサカは最大の疑問をぶつけてみたり」

「分かりません!起きたらまさかの透明人間戻りに私自身が驚いている所です」

「寝る前から既に透けてたけどなァ、オマエ」


数週間前。
一時は生死をさ迷う出来事に遭遇した
色々な大切な何かをそれぞれが見つけ、想い、駆けずり回った

結果として無事に皆は助かった。


「その内戻ってるから大丈夫!それに今はこんな姿になってもミサカも一方通行も話してくれてるからね〜!怖いものナシさッ」


本当にそれだけで今のトモは救われていた
別に姿が見えなくても、こんなにも楽しいのだから


「ミサカはどんなトモでも大好きだよってミサカはミサカは隣のトモに笑いかけてみる」

「あ〜またまた残念ミサカさん!私はこっちだってば〜」

「むむむ…!感動的シーンに水をさすなんてってミサカはミサカはめげずにもう一度逆を向いて意地になって笑いかけてみる」


アホかコイツ、とアホ毛がトレードマークの打ち止めに冷ややかな目を送った一方通行

トモは居ると分かっていても、やっぱり一方通行からしてみても打ち止めが左右に頭を揺らし笑っているようにしか見えない


「うんうん、気を取り直して〜!ミサカありがとう…!」

「ひょっとして今ミサカに抱き付いてるの?ってミサカはミサカは密かな違和感に気付いてみたり」

「えぇ!?分かるのミサカ?そうそう、今かなりあつーいハグをミサカにお見舞いしてるのさッ」


皆が目を覚ますまで一睡もせずに起きていたトモ
何より体を張って助けてくれた一方通行には一番にお礼が言いたかった

彼が目を覚まし、入れ違いで限界の頂点に達したトモは一言告げて夢の中へ
その時からだった
トモの身体は徐々に姿を消していき、一瞬だけ姿を見た一方通行はそれからトモの姿を確認していない

勝手に能力が暴走して透明人間になったトモは、目覚めてからも元の姿には戻らず…

現在も原因不明の透明人間のままだった


「スーパー透明人間トモってことでー!」

「ネーミングセンスの欠片もねェまンまで相変わらずのボケだな」


以前はトモに触れられている感覚すら感じてもらえず、本当に一人の世界だった

だが、今は違う
隣でこんな自分に笑顔を向けてくれる人が居る
何も気にせず会話をしてくれる人が居る

十分過ぎるほど幸せだ。


「ちなみに今はレータのお腹のうえ〜」

「アバラ折れるンですけどォ」

「ミサカもミサカもー!」

「アホか、テメェが乗ったらシャレになンねェだろォが!」


何はともあれ元気に仲良くやっている三人の入院生活だった


――――


「今日は一方通行と寝る日〜!」


そんな声が真っ暗な病室から聞こえた
消灯時間に入り、月の光だけが病室を照らしている

隣のベッドからは打ち止めの寝息
時々、ミサカはミサカは…と寝言が聞こえてくる

一方通行を挟んで両隣には二つのベッドが備え付けられてはいた
一つは打ち止め、もう一つはトモのものだ


「ナニが悲しくて幽霊となンざ」

「照れるなよ〜!幽霊なんだからさー」

「どォでもイイが自分の寝床があンだろ」

「やっぱり朝起きたら隣に誰か居た方が今の私にはとても安心出来るのです」


別に居るようで居ない存在なので気にもしない
それどころかトモの行動にも慣れたので別に姿が見えていたって気にしないだろう

ただ隣で寝ている、それだけの事だ


「ところでレータ、身体は大丈夫?頭痛くない?反射ないけど平気?」


一応、かなりの重症患者な一方通行
怪我人にそんな質問もどうか…と言う感じだが


「オマエに心配される程、俺ァ柔じゃねェンだっつの」


とは言ったものの、今の一方通行は無能力者と変わりのない状態だった
寧ろ、無能力者以前にそこらの一般人より厄介かもしれない

あの事件の日、頭蓋骨を撃ち抜かれ大きな損傷を負った
その所為で彼が持つ演算能力を失ってしまった


「ミサカ達が居て良かったね!居なかったらヨボヨボの白髪のお爺サンになってたもんね〜」

「…余程ブッ殺されてェンだな」


冗談でしょ〜とトモの小さな笑いが室内に響いた

失った演算能力は、カエル似の医者‘冥土返し’の腕によりミサカネットワークに補ってもらう事でどうにかなっている
一方通行の首には黒いチョーカー、それから線が頭に伸びていた

これが無ければ、自分で歩くことも出来なければ上手く話すことも出来ない


「ヨシ!ポジティブに行こう!」

「はァ?また唐突に、主語が何処にも存在してねェ」

「反射は簡単に出来なくなったけど、ってことは一方通行に触れても大丈夫ってことなのさッ!」


デフォは反射に設定。
能力の所為でたくさんの人を傷付けた

それがなくなった今、初めて人の温もりを感じられるのだ


「ほらー!こうやって手も繋げるよ、人肌は暖かいよね」


ミサカネットワークに演算を補ってもらいバッテリーの関係上、彼が能力を使用できる時間は一五分間だけ
その時間だけが、学園都市第一位の力を発揮できる時だ


「だから大丈夫なのさッ!」

「オマエ今の状況分かってンのか?ナニも感じねェって話。ボケは黙って寝ろ」


一方通行の手を取り握ったトモには伝わった
彼の人としての温もりが、とても暖かった
だが、今のトモは姿の見えない透明人間
握られた感触なんて、これっぽっちもしない

 …筈だった

が、一方通行は感じたのだ
握られる感触をトモの温もりを。

何か勘に障るので、トモには絶対に言ってやらないが


「早くもとにもどり…」


…たいな。

そう言い残し、先程まで普通に喋っていたトモから寝息が聞こえる

どんだけ寝るの早いんだ、と彼は横に視線を向けた
隣に居るであろうトモの姿は何処にも無い


「クソが、がっちり握ってンじゃねェっての」


見たところ何の変哲もない一方通行の手
だがそれは、見えない相手からしっかりと未だに握られたままだった

確かに感じるトモの温もり
何だか妙な安心感を覚えたが、彼は気付かないフリをした。


手は繋ぐために
(まァ、とりあえず一回死刑だな、このクソケツ)



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