Comes Up

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ヤケに静かな夜道にコツコツと鳴る杖の音
ゆっくりとした足取りで特に急ぐこともなく、月明かりの照らす夜空をバックに存在感抜群の真っ白な髪を揺らしながら歩く


「ちょっとー?ひとりでドコに行くんですかー?」

「居たンかよオバケ」

「居ましたよ!しっかりレータの背中にへばりついてますとも!」

「どォりで肩がヤケに重てェ訳だ」

「ちょっとー?失礼ですよにーさん!?」


別に重さなんて微塵も感じないのだが…

病室のベッドに居る筈の一方通行とトモは、只今夜道を散歩中


「どっかのクソガキ共が煩いせェで目が覚めちまった」

「聞こえてたの!?二人だけの内緒話をさ〜」

「アレで聞こえてねェと思うオマエ等の神経がどォかしてンじゃねェの」


ネットワークを介してブツブツと交信していた打ち止めから、病院の外で起きている少し困った事件の話を聞いた

とある少年と少女、そして目の前で真剣に話を聞く現在幽霊少女の三人が止めてくれた‘実験’
それが再開されるかもしれないと言う面倒な事態になっていた


「こーんな役に立つ身体してるからね〜!チョチョイとこっそり盗んじゃおう作戦を決行しようと思ってたんだけど」

「フンッ」

「まさかレータも同じコト考えたなんて!さすが私のパートナー!」

「いつ誰がオバケのパートナーなンざになったってンだ」


今が夜で良かっただろう
端から見れば、大きすぎる独り言を零す学園都市の最強にしか見えないのだから


「みんなが悲しくなるアレは絶対に復活させません!」

「そォですか」

「二人で力を合わせてミサカ達を守ろー!」


オー!と、一方通行の背中にへばりつくトモは拳を握り空へと高く掲げた

宇宙に散らばった樹刑図の設計者の‘残骸’
その残骸で機能を失った樹計図の設計者をコンパクトに復元しようとする輩が現れた

難しい話を全て聞き流し、簡単に纏めるとこういう事だろうとトモは解釈する
そんな物がまた出来たらどうなるだろう?
樹計図の設計者で演算されて始まった‘実験’

ようやく終わった悲しい実験が再開される危険性がある
それだけは阻止しなくてはならない

誰も幸せになれない実験なんて…
殺す方も殺される方も。
第三者として見てる方も。

そんな実験は、絶対に再開されてはいけない


「ん?早速犯人を発見したんじゃなーい?」

「つーかよォ」


ビルに囲まれた片側三車線もある大きな道のど真ん中で一方通行は止まった
前方には、ボロボロの身体で一つのキャリーケースを引き摺るスカートで胸にサラシを巻き上から学ランを羽織るツインテールの女の影

妹達のネットワーク経由で打ち止めの下に色んな情報が流れた
それが妹達全体に影響がある今回の一件
大きなトモと打ち止めの内緒話で知り街へと繰り出した一方通行は、


「一体なンだァこりゃ?せっかく人が脳に電気流して杖までついて、ついでにオバケまで背負って死にもの狂いやってきたっつーのによォ」

「なんだとー!?私がお荷物みたいな感じ!ってそー言いながら置いていったくせしてー!」

「大体、何が世界に二つとないチョーカー型電極だっつーの。あのクソ医者、間に合わせで試作品なンぞ渡しやがって」

「なんでアクセラのチョーカーが作れて私の元に戻る薬は作ってくれないのさ!?セーコーイー!」


行く手を阻む学園都市最強を前にして、今回一件の主犯、結標淡希は頭の中が真っ白になった

自分の目的の為に、残骸一つを手に入れる為に。
何かしらの‘目的’があれば止まらずに済む、進んでいける

結標淡希から目的を奪い取れば彼女はそこで止まってしまうのだ

だが、


「ンで、せっかくここまで来て、よォやくこの俺にこンな思いさせてる馬鹿に出会えて、さァさァどンな愉快な馬鹿かと思ってみりゃあよォ…何だァこの馬鹿みてェな三下は!?」

「この短い間にバカを三回も言いましたよ!」

「クソケツ以上の馬鹿に出会えたわ。オマエは俺を本気でナメてンのか!?」

「ボロボロのお姉さんとそしてまた私に…!失礼じゃないですかー!?」


結標淡希は見た
闇の中で、白く、白く、白い本名不明の一方通行を

そして目に映るのは一方通行だけなのに、もう一人一方通行より少し高い声が闇に響く
何者かと会話をしているような、あまり成立していない会話

その奇妙な場面そのもの、そして何よりどうして今この場所に…
その姿を見ただけで。
心臓と呼吸は一瞬確実に止まった


(…ど、どど、どどどうにか!どうにかしないと…ッ!!)


混乱と恐怖からか頭の中はぐちゃぐちゃになる
あの第三位の御坂美琴でも相手にならないようなヤツを自分が相手に出来るわけがない

場違いにも程がある彼の出現
こんなちっぽけな能力者の前に何故現れたのか…?


「…私は知っている!」


グダグダと何かと会話する一方通行に結標淡希は、混乱する頭で一つの打開策を見つけ出した


「今の貴方に演算能力なんてない!かつての力なんてどこにもないのよ!あるはずがないもの!もはや貴方は最強の能力者でもなんでもないのよ!!」


見つけた打開策。
勝ち誇ったように叫ぶ結標

それを見て一方通行は、


「哀れだなァ、オマエ」

「…えーっと。にーさんが怖いのでトモさん黙っときます」


声色を変えて明らかに一方通行の勘に障った発言にトモは、遠い方を見ながら言う


「本気で言ってンだとしたら、抱き締めたくなっちまうほど哀れだわ」

「なにー!?まず最初に私をギューしてからにしてね」


この緊迫した中で一方通行を覗いて対照的なトモと結標。
黙っておくと言っておきながら、一言一言しっかりツッコむトモの全くの緊張感のなさ
対して結標は、立っているのもやっとだと言うのに…

何か後ろで喚く幽霊少女は、いつもの事なので放っておくとして。


「ハハッ!強がらなくても分かっているのよ!」


結標淡希は知っている。
学園都市のもっとも頂点に立つ者の近くにずっと居た者として
八月三十一日に一方通行がその名の由来となる力を失っていることを


「かつての名声を盾にハッタリで、私を追い詰めようとしたのかしら?」


だから前に立ちはだかるだけ
能力が無ければそこらの一般人と変わらない
能力が無いのだから攻撃すらも仕掛けられない

だが、その間違った打開策こそが彼女の寿命を縮めるだけだった


「ん?誰にそんな間違った情報をたらし込まれたの?」

「…は?」


ドコにいるかも分からない女の声が結標をどん底へと突き落とす


「オマエは本当に哀れだよ。イイか、今からオマエにたった一つの答えを教えてやる」


暗がりの中で緩く両手を左右に広げた

確かに一方通行は、八月三十一日に脳にダメージを負った
今じゃ首から伸びる電極で妹達に演算を任せている身だ
厄介な事に妹達の電波が届かなければ演算補助は受けられないし、回復した力も元の半分あるかも分からない


「コイツのバッテリーはフル戦闘で使えば一五分持たねェよ」


だがそれが何だというのだ。
一方通行は力を失ってしまったかもしれないが、


「俺が弱くなった所で別にオマエが強くなった訳じゃねェだろォがよ。あァ!?」


歪んだ笑みは、全てを物語っていた

一五分。
その時間だけが一方通行が名前の由来の通り最強の限られた時間
短い時間かもしれない
あっと言う間な一瞬な時間かもしれない

だが、それだけあれば十分だ
一五分あれば相手なんて瞬殺なのだから


(逃げるべきは……上ッ!)


一方通行は、軸足を地面に踏みつける
固い地盤が地震のように振動し、建物のガラスは雨のように降り注いだ

逃げ道は上しかない

とっさに空中へ座標移動した結標は、落下する前に屋上へと連続移動出来ないかと慣れない作業に頭を働かせた

昔のトラウマが邪魔をして吐き気を堪える彼女など知ったこっちゃない。

学園都市に君臨する最強はお構いなしに相手を打ちのめすだけだった





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