Comes Up

□.
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物陰から見守る男が一人。


「走る姿も素敵です」


表舞台はあの男に任せて、自分は裏舞台から彼女を守ろうと決めた男は、影から彼女を文字通り見守り中


「何しても絵になりますね」


影から見つめるその人は、現在借り物競走に出場中だ
一歩間違えればストーカーにでもなれそうな彼に、


「…またまたまた迷子に…ブッ!?」

「ん?」


三度目となる迷子の透明人間ちゃんが彼の背中にぶつかっていた

顔だけを振り返らせた彼は、背中に思い切り顔をぶつけている彼女に声をかける


「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。突然のぶつかりごめんなさい、前を全く見ていませんでした」

「いいえ、お気になさらず」


紳士のように微笑んだ彼は、次のトモの叫びから悪魔の笑みに変わることに…


「あぁー!美琴ちゃん!」

「え?」

「と、当麻!」

「…え?」


彼の背中越しからヒョイッと顔を出したトモは、見知った人物を見つけて手を振る

借り物競走に必死な美琴は、トモに気付かず
美琴に腕を引っ張られた当麻は気付くも、足を止めることが出来ない

そしてそのまま去って行く二人


「影からと決めましたが…」

「へ?」

「いざ視界に入ると何だか腹立たしい…」

「おーい」

「やはりあの位置に相応しいのは自分じゃ…」

「おにーさあん」

「いっそのことあの男の皮膚をベリッとやる方が一番手っ取り早いんじゃ…」

「おにーさんってば!」

「…ハ!」


トモの呼びかけに我に返る

その男はとある魔術師
ある任務を言い渡され学園都市に侵入
変身魔術が得意な彼は、現在海原光貴の姿を借りていた

本名はエツァリと言う


「ボソボソおにーさんどうしたのさ?」


そのままのあだ名。
ボソボソと何か一人で喋っていたので、ボソボソおにーさん


「いえ、どうもしていませんよ?自分はボソボソではなく海原光貴と申します」

「海原みっちゃんね!私はトモー」


このままではただの変人だと思われてしまうので、自己紹介をしてみる
だが大丈夫だ。
相手はトモなのだから


「み、みっちゃん…ですか」


海原光貴は仮の姿な訳だが
そんな可愛らしいあだ名を付けられても…なんて思ったり


「そういえば、トモさんは迷子になられたんですか?」

「そうなんですよ!レータ達とまたまたはぐれたのです!!」


また怒られる〜と、大きく口を開けて本題を思い出したトモ


「あぁ〜せっかく美琴ちゃんを発見したから着いて行けば良かったなぁ」


と、しゅんとしながら呟いたトモに海原は片眉をピクリと動かし反応する


「トモさん、御坂さんとお知り合いですか?」

「うん、友達さッ!あっ!ケーキのお店見つけたから美琴ちゃんに言うんだった」

「トモさん!」


どうにかして、御坂美琴の間に入り込みたい
そうするには、


「自分も同行させてください」

「え?レータ探しに?」

「違います。御坂さんに」

「あ…?あぁ、ケーキに?」

「そうです」


美琴の友達だと言うトモに着いて行けば、簡単に会えるではないか


「いいよ〜!じゃあ、みっちゃんも今日からトモさんの友達だー!」

「はい、宜しくお願いします」


そんな下心丸出しの海原の作戦など気付くはずもないトモは、快く了承
思わぬ展開に喜ぶだけだった


「あぁー!レータ発見!」

「知り合いが見つかって良かったです」

「また連絡するね〜!バイバイみっちゃーん」


手を振り去って行ったトモの後ろ姿に海原は手を伸ばした

気付かないトモは人混みへと消えて行き、伸ばした手が虚しく宙ぶらり

だって、


「連絡なんて交換してませんが…」


次どこかでトモと会える時まで、この話は延期だろう

結局現状維持のままで終わった海原光貴だった。


――――


あァ、ボケが見える。


「ココココー!私はココですよー!」


一度も二度もあれば、三度目もあるようだ
ある意味三度もはぐれられるトモが逆に天才か


「どォしようもねェボケっぷりだなァ、オマエ」

「大丈夫!はぐれてもまた再会出来てるんだから〜」

「…ハァ」


開き直りに入ったトモに反省の色ナシ
流石の一方通行も呆れとため息しか出て来ない

そんなトモを何だかんだ言いながら三度も探しに出る一方通行

うん、優しい。


「さっきみっちゃんとお友達になったのさッ!」

「あァそォ」

「今度ケーキを食べに行く約束をしました」

「ふーン」


いつもの様に隣でベラベラと喋るトモをいつもの様に適当に相槌を打ち適当に流す

少し前まで透明人間状態だったトモ
初めてちゃんとした姿で参加出来た大覇星祭
新しい‘友達’に出会え、接触でき話し合える

今まで彼女がどんな生活を送ってきたかを知っているからこそ思う

毎日が本当に楽しいんだな、と。


「あぁッ!ねっ、レータ!」

「あン?」

「ケーキ食べに行こう!」

「はァ?」

「私の初めての友達で大好きなレータとまだ食べに行ってないじゃなーい!」


また飽きもせず、こっぱずかしい台詞を…なんて思いながら片眉を釣り上げる

原点は一方通行。
缶珈琲の出会いを果たし、家が隣同士
ただのそれだけだった二人

辿ってきた道筋は全く違った二人が今隣に居る

トモが初めてだと言うように、それは一方通行にとってもそうなのかもしれない


「ストレートの告白ありがとよォ」

「あぁッ!?ストレートに受け入れてくれたの初めてじゃない!?」


まあたまには、直球で返してみようか。

お騒がせなヤツだが、今の一方通行の一部になっているヤツでもあるトモ

互いの距離が何か違った感じで縮まった瞬間だった

笑顔のトモに腕を引かれながら僅かに微笑する一方通行は、人混みへ溶けて行った


放し飼い注意!!!
(よーし!とっておきの美味しいお店に行こー)
(誰が行くっつったよオイ)
(今の流れは行く流れでしょ!?)
(その前に首輪買いに行かねェとなァ)



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