Comes Up
□25
1ページ/2ページ
一人の研究者が居た
正確には、元研究者だ
普通なら今でもベッドのお世話にならなければならない彼女だが、ある子供達の面倒を見る為にその役を自ら引き受けた
やらなければならいのではない
自分がやりたいのだ。
そんな子供達は今日もすこぶる元気なようで、
「やだー!ってミサカはミサカは拒絶してみたり。降りない絶対降りないこのスポーツバックの上はミサカの敷地だ!ってミサカはミサカはアナタの抱えるバックの上で正座しながら強気の抗議をしてみる!」
「オマ…ッ!人が肩で担いでるバックの上ではしゃいでンじゃねえぞクソッたれがァ!」
殺される為だけに作られた少女達と、彼女達を殺す事だけを命じられ続けた超能力者
その‘実験’を立案、実行に移した研究員グループの一人、芳川桔梗
現在は、実験には致命的欠落があるとされ、凍結ではなく中止となっている
中止にはなったが、彼等の間には絶対的な溝があるはず…だった。
だが、芳川が呆れてしまう程に彼等は元気だった
そしてもう一人。
「ハーイ!これも担いで〜」
「オマエ今の状況分かってンのか?クソガキの乗ったバック担ぎながら、逆で杖付いてンのが見えねェのか!?」
「いいから頑張って持ってくださーい!」
「オイコラ、オマ…!ふざけてンじゃねえぞ、クソケツがァアッ!?」
「無理やりレータの担いだバックの上に乗るトモさん完成〜!」
自分のバックを一方通行の肩に掛け、かなり強引に無理やりバックの上に乗るトモ
トモも小柄な部類に入るが打ち止めよりは大きい為、本当に無理やりまたがっているだけ
幼少期の八年間を暴走した能力の所為で誰にも姿を捉えてもらえない透明人間の身体で過ごしてきた
トモは‘実験’に救われた者。
直接関わった訳ではない
芳川はトモに教えたのだ
新しい実験が始まるから研究者達はトモを追わないだろうと
本当は、トモが姿を消した時点で彼女に殺される事を恐れた研究者達は既に身を引いていた
たが、いつまでも心の晴れないトモに一言のキッカケを告げた
「ふらふらかもってミサカはミサカはゆらゆら揺れるあなたに合わせてバランスを取ってみたり」
「お…おぉ…!?たいへん落ちるー!!!!」
「だからオマエ等…!人が病み上がりだっつー事実忘れててンじゃねえか!?」
バックの上でちょこんと正座して、ブランコ風に肩紐を左右の手をそれぞれ添える打ち止め
無理やりバックの上にまたがり、バランスの取れなくなったトモは彼の首に巻き付く
トンファーの様な杖を付きながら両肩にバックを背負い今の現状に発狂する一方通行
八月三十一日に額に弾丸を受けて入院していた一方通行だが、一カ月の期間を得て漸く退院の許可が下りた
退院と言っても正確には、やるべき処置は全て終わっただけ
知っての通り今の一方通行は、昔のような状態ではないからだ
まあ、あれだけの傷を負って日常生活に戻ってこれただけでも奇跡だろう
そんな事情もあり彼らは現在、病院の正面玄関に立っている
「はいはい。ここは出入り口だから遊んでいると他の人の迷惑よ。そういうのは荷物を置いて一段落ついてからにしましょう」
「ミサカは遊んでないもん!ってミサカはミサカは重心を下へ下へと押し付けながら抗議してみたり!」
「私も遊んでないもん!だって身の危険を感じながらなんとかこの定位置を死守してるんだから〜」
「この滴り落ちるほどのレジャー感覚が遊びじゃなけりゃ何なンだよオマエ等!オイケツ!暑苦しィから離れろ!」
「も〜照れちゃって〜」
今にもスポーツバックとトモに押し潰されそうになりながら一方通行は叫ぶ
芳川は三人をスルーし、少し離れた所に待たせてあったタクシーの運転手に軽く手を振る
一方通行は、打ち止めの乗っかった荷物を運転手に掲げ、
「丸ごとトランクに押し込んでやるから今すぐ開けろ」
「ミサカお荷物扱い!?ってミサカはミサカは戦慄と共に後部座席に逃げ込んでみる」
バックから飛び降りタクシーに逃げ込む打ち止め
「オマエもトランクに収納されてろ…あン?」
打ち止めは押し込めなかったので次に反対のトモを押し込んでやろうと思ったが、既に居なかった
そう言えば、いつの間にか首回りが軽かった
「忍法隠れ身の術〜!」
文字通り、姿を消したトモの声が隣から聞こえてきた
身の危険を察知したトモはいち早く身体を透かして逃げていた
まあ間違っても忍法でもなんでもないのだが
全く…
逃げ足の早いすばしっこい二人だ。
一方通行は、後部座席にバックを放り投げ打ち止めをムギューっと押しつぶし空いたスペースに腰掛ける
座ろうと思えば座れる後部座席だが、あの騒ぎに混ざる気はないし、今は見えないがトモも居ることだし芳川は助手席に回る
そして念の為、声をかけておく
「彼らは退院直後のシャバの空気でハイになっています」
運転手に告げると笑って子供はそのぐらい元気があった方がいい、と陽気に答えてくれる
丁度その頃、姿を現したトモが遅れて一方通行の隣に座った
「あと小さい方は車に慣れてないので吐くかも」
「…ッ!?」
「あぁそれと後から乗ってきたもう一人は血を吐き出すかも」
「…えぇッ!?」
運転手がビクゥッ!と身体を震わせる
そんな動作に新人かな?と推測する芳川
ハッタリ中のハッタリなので、安全に運転してもらう為の嘘だ
それにしても血を吐くだなんて…
これには運転手も声をあげた
そんな危険人物二人に囲まれている一方通行
特にトモなんてたまったもんじゃない
吐くかも宣言を本気で信じて打ち止めとトモの顔を掴んで遠ざけながら芳川の後頭部を見ながら、
「どこ向かってンだ」
「私の知り合いが働いている学校。待ち合わせみたいなものよ。キミ、今の学校を辞めてしまうんでしょう?それが何を意味しているのか分かっているわよね」
学園都市に住む学生のほとんどは寮を利用している
彼が学校を辞めると言うことは、住む場所を無くすと言うことだ
「それにトモもいつの間にか自分の家を解約してキミの家に居候しているしね」
一方通行が家を無くすと言うことは、自動的にトモも家が無くなると言うことだ
「んー?私呼ばれましたかー?」
「オマエの脳ミソはパッパラパーだな」
「パッパラパー!何それちょっと可愛いよレータ」
そんな事実を分かっていないのか、話に少し参加し、一方通行の背中の後ろで打ち止めとじゃれている
別に住んでいた家に未練など、これっぽっちもない
ただ家具やガラスが飛び散った家になど。
だが、一方通行と言えども屋根のある空間を奪われるのは結構な出来事だ
そういったリスクを負ってでも一方通行が、学校を辞めると言う選択肢を取った理由は、
「…絶対能力だなンだっつーのに関わンのはもうゴメンだからな」
一応、‘実験’を行ってきた機関は潰れている
あらゆる意味で血まみれの世界から解放される為にはこの選択が一番だ
一方通行やトモ、打ち止めと言ったあまりにも特殊すぎる人間は学園都市の外に居場所はない
一方通行は唇を歪めて、
「で、今後はオマエの管理下で収まるっつーのが統括理事会の決定か?まァ、オマエだったら研究分野的にもおあつらえ向きとァ思うけどよォ」
芳川はかつて実験に参加していたメンバーで、打ち止めなどのクローン製造の他に一方通行のメンテナンスも行っていた
「よっしー!私を焼いて煮ても何も出て来ないからね〜」
「…はァ」
学校にも行ってなければ書庫にさえ乗っていないトモに家があったのは芳川とカエル顔の医者の手引きがあったから
まあトモは知らないが。
絶対能力関連の研究が中止になったとしても、彼は学園都市最強の超能力者であり優れた研究材料でもある
希少価値の原石であり未知なる能力者である彼女もまた、良い研究材料だ
芳川に色々と調べさせて、新たな能力開発技術に応用出来れば莫大な利益になる
どこまで行っても何者かの思惑や影響を感じ続ける
まあ、これまで一方通行達が出会ってきた大人はどれもまともとは言えない
まだ芳川に決定権を貸しておいた方が気もいくらかは楽になる。
無論、芳川のやり方が気にくわなかったらさっさと叩き潰して他を当たるが。
「違うわよ」
だが、芳川から返ってきたのは全く的外れの返答だった
⇒