LOG置き場!

□食欲は恋に勝るのか!?
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「ミラッ!」

「ハイハイ」


カウンターにて。
席に座るなり身を乗り出して物凄いニンマリ顔を貼り付けたツバサに意図が分かったミラは簡単な返事をして準備に取りかかった

時刻はお昼をちょっと過ぎたところ

聞かなくても分かる
顔を見ただけで分かる
お昼ご飯を待つ子供の様なツバサを横目で見たミラは誰も気付かない程の微笑を残した


「はい、お待たせ!」

「ホイ来たぁ〜」


目の前に置かれた湯気の立つステーキにテンションは最高潮。
瞳をキラキラと輝かせ至福の時間に先ほどよりも更にグレードアップしたニンマリ顔を貼り付けたツバサ


「いっただっきまーす!」

「熱いから気をつけてね」


出来立てほやほやの鉄板に危うく手が当たれば火傷モノ。
立ち込める湯気で顔が隠れてしまいそうな程にミラが用意してくれたステーキへと顔を近付ける

肉との睨めっこをしてから顔を上げて元気な声と共に両手を合わせて食べ始める


「おいしい?」

「もみみょんっ」

「フフフ、そんな頬張らなくても逃げないわよ」


‘もちろん’も言えないほど口の中はステーキでいっぱい。
口に切り分けたステーキをしこたま含み、最早ハムスター状態のツバサにミラは嬉しくなる
いつも思うが、本当に美味しそうに食べてくれるのだから
焼いた甲斐があるってものだ


「口に入れすぎだろ」

「ぎゅれい」

「誰だよそれ」


黙々と食べるツバサの隣の席にぎゅれいコト、グレイが座る
ツバサに身体を向けるように左手をカウンターに置いた


「ツバサみてっと腹減ってくんな」


お昼時と言うこともありお腹が空くのも当然だが、ツバサを見てると更にお腹が空いてくる
何の変哲もないステーキを美味しそうに食べているのだから


「まあ、あんま期待しねえけど…あーん」


だから一応やってみる
モグモグと口を動かすツバサに大きな口を開けたグレイ
こうやって口を開けて待ってみた所でツバサが一口くれた例は無いので期待出来ないが取り敢えず待ってみる


「………え」


隣で大口を開けるグレイの顔がグイッと近付きアップになった所でツバサは固まる

ドキリと跳ねた心臓
無防備なグレイの姿…

顔は固まっているが肉を切る手はしっかり動いている
切り分けた肉をフォークに差し口元まで持って行く動作をしたツバサに貰える!と思ったグレイは更に口を開けたのだが…


「って、くれねぇのかよ!」

「こここれ…俺の…」


グレイをジッと見たまま止まっていたツバサはフォークに刺された肉を自分の口の中へ
てっきり此方を見ているんだから貰えると勘違いする筈だ。
グレイには分からないぐらいに頬を染めるツバサは、目を泳がせどもった


「ツバサに期待した俺がバカだった」


あからさまに肩を落としたグレイは横目にフランクフルトを手に持つジュビアを捉えた
ツバサに期待せず、ジュビアに一口貰いに行こうと思ったグレイは席を立つ

それをモグモグと口を動かすツバサはグレイの去った方へ身体の向きを変えて目で追った
そこには嬉しいのか照れているのか、頬をピンクに染めたジュビアの姿とグレイが先ほどと同じ様に口を開けた姿


「…………ん?」


グサリ。
自分の心臓に何かが刺さった音が聞こえた気がした

この場面、この感覚は知っている
前にもあった
フォークが刺さった様なこの何とも言えないチクチクと痛い感覚


「…グレイ!!」

「んぁ?」


今まさにグレイがジュビアから一口貰う瞬間
口を大きく開けてフランクフルトが口の中へ旅立つ瞬間

ツバサは声を張り上げてグレイの名を呼んでいた
口を開けたまま突然呼ばれたグレイはフランクフルトを食べる前に止まってツバサを横目に見た


「ホラッ!食えよ!」


自分でも何をやっているのか分からない
身体は勝手に動き、いつの間にかグレイの名を呼んでいた
そして手も勝手に動き、湯気の立つ肉を刺したフォークをグレイへと腕を延ばしていた


何やってんだ私…


「ツバサ様?」

「珍しい奇跡が起こってんぞ」


ツバサの行動に疑問符を浮かべるジュビア
グレイはフランクフルトに近付けていた口を離しツバサへと振り返り歩き出した


「グレイ様?」

「サンキューなジュビア、ツバサの気が変わんねー内に貰ってくるわ」


改めてツバサの隣の席に座ったグレイは座るなり口を開けだす


「あーん」

「…………」


だが、ツバサは動かない
黙り込み再び目を泳がせた


「ツバサさんよォ、気が変わんの早過ぎね?」

「あっ…やっやるよ!ホラッ!」


一向にくれないツバサに不振な目を向ける
その一言で我に返ったツバサは慌てた様にグレイの口元へとステーキを持って行った


「うめーな、さすがミラちゃん」


貰った一口を食べ自然と笑顔が零れたグレイにキョトンとするツバサは異変に気付く

チクチクと痛かった胸の痛みは無くなっていた
それどころか何だか嬉しくなっている

言うならばドキドキ…


「今日は気分がいーからもう一口あげるぞ!」

「変なツバサだな」


先ほどまでの慌てたツバサは何処にもいない
心臓のフォークも取れた
いつも一緒にいるくせに、今は隣にグレイが居ることが嬉しく感じる

この気持ちはなんなのか?


「俺にもやって〜!」

「なにを?」

「あーん!」

「なんでだよ…」


フォークの主導権を握っているツバサが何故かグレイに口を開ける始末
それに呆れた様に笑ったグレイはツバサの手からフォークを取りツバサの口にステーキを放り込んだ


「うまーい!」

「良かったな」


いつの間にか仲良く食べ、バカップルにも見えるやり取りにミラはフフフと微笑みかけていた

今回の勝者…恋…?


食欲は恋に勝るのか!?
(ハイ、もう一口)
(自分で食えよ)
(グレイもあーん)
(何のやりと…あーん)

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