監獄

□フレンチキスを交わして
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「ボリス、」
「…あんだよ」
「手、荒れてるよ?」
「は?…ああ、仕方ないだろ。ちゃんと洗わないと、火薬臭くて駄目だから」
「クリーム塗ればいいのに」
「…薬用しか使わねぇぞ?しかも無臭のヤツな」
「我が儘言わないでくださいよ。」


同僚で年下の先輩。
兼、俺の好きなヒト。

同性だとか、そんな事は問題じゃない。
俺がボリスに惚れたのには、ちゃんと理由があるからだ。


敢えてそれを述べるなら、彼が真面目で一途だという事。

与えられた仕事に一生懸命取り組み、それをしている間は周りに構わないで行動する。

それで視野が狭くなる事が多いらしく、返り討ちにされるのがお決まりのパターンだ。


「じゃあ、センパイ」
「…名前で呼べ」
「ボリス、俺が使ってるハンドクリーム貸してあげる」
「…無臭で薬用か?」
「蜂蜜の香りだけど…嫌?」
「嫌じゃ…無いけど」
「…けど?」
「本当に効くか?俺、肌に合わないのは嫌だから」
「…使ってみない事には、何とも言えないね」
「だよなぁ。」
「それとも、俺が舐めてあげましょーか?」
「はぁ!?」
「ほら、よく言うじゃないすか。唾付けときゃ治るって」
「今更言うか?」
「ま、ジョークだから気にしないでください」
「…舐めろよ。」
「え」
「舐められるんなら、舐めてみろよ」

挑発するように言われて、彼の心境が読めないまま話を進められた。

「さぁ、どうする?」
「…手に口付けをするって、どういう意味か分る?」
「手?たしか、懇願とかだったか」
「それは掌。手は尊敬を意味するんだ」
「尊敬ェ?お前が?」
「…どちらかと言ったら、懇願したいとこだけどね」
「何をだ?」
「……。」

俺が貴方に告白した時、
了承してくれないならそれでいいから、何事も無かったようにいつも通りに接してほしい、という懇願。

そんな事を口に出せるはずもなく、しばし沈黙が続くが、それを破るようにボリスが呟いた。

「…コプチェフ」
「は…、え?」
「なんだ?懇願って名前で呼ばれたいとかじゃないのか?」
「…それも、ありますけど」

このヒトは…、鈍感なのか敏感なのか分かんないよ…。とひとり苦笑した。

「んだよ、言いたい事あるなら言えばいいだろよ。俺とお前の仲だろ?」
「ボリス…」
「こんだけ言いやすくしてやってんだ。告白くらい早くしてくれよ?」
「え」
「あ、」
「今…なんて?」
「ったく、計画が台無しになっちまった…。まぁいいか。よく聞けよコプチェフ」

俺は他兎よりも耳が利くんだ。だから大抵の奴等は声で感情が分かる。
付き合い長いコプチェフの事なら尚更分かる。
だから俺は、お前が俺と話す時にいらん緊張をしてるのが分かった。
…すぐ気付いたよ。それが恋心だってな。
俺はそうやって想われた事なんて無いからな、正直嬉しかったんだ。
それから直ぐにお前に惚れたよ。まさか同性に惚れるなんて思わなかったがな。
で、自分からするんじゃ面白くないから、コプチェフに告ってもらおうとしたが、お前は以外と奥手だったと。
せっかく誘ってやってんだ。兎だったらノッてこいよ?

「…は、はあ……」
「なんか質問は?」
「無し、です」

余りにも意外過ぎる現実を飲み込めなくて、むしろ頭が空っぽになっていく気がした。


「おい、」
「え、あ、はい?」
「俺に言う事あるだろ?言っとくが、俺はお前を待ってやるほど優しくねぇぞ。」
「ボリス、………好き」
「…上出来だ」
「……っ」

なんか、思ってた展開と全然違う…。センパイってこんなにかっこよかったっけ…。

「ほら、掌。キスして懇願しろよ」
「…キスは、唇が先」
「はんっ、お前らしい」



『フレンチキスを交わして』


(さぁ、運転手なら俺の事乗り回してみな)
(俺の心は見事に狙撃されたってわけだ。)





 

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