華蓮学園高等部
□01.頭は二つも要らない
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『華蓮学園』
超有名私立高校。基本的に金持ちの御曹司や家柄の良し悪しで受験の合否が決まってしまうという常識を軽く飛び越えた有り得ない学園である。
そんな有り得ない高校で、俺は生徒会長をしている。
御曹司でもなければ家柄も平凡。
入学して、生徒会長にまでなれたなんて奇跡みたいなものだろう。
この学園は有り得ないことが多い。
全校生徒は、通称『華組』と『艶組』の二つの勢力にわかれている。
おまけに、寮から校舎からすべてが分断されていて、お互い顔を合わすのは職員室へ通じる真ん中の広い廊下くらいだ。
そして、二つの勢力への加入拒否、言わば中立を選ぶことは不可能。
受験日に選択を迫られる。
なぜ、あの時、ここに入学してしまったのかと自分を恨みたくなる。
三年華組に所属する俺は、華組の教室で読書を楽しむ。日課だ。
この安らぎの時間を、とある一人の友人が壊した。
「桜坂〜! A組が、俺らを殺すとか言ってんだよ!マジヤバいって!」
「殺すわけないだろう」
「桜坂ぁ〜!」
俺の机でうなだれる綺麗な顔立ちの美青年。爽やかな笑顔が好印象な、この男は俺と同じ華組。萩原 高峰。
「そういえば……。守封がいないじゃん。 桜坂は知ってる?」
「知らない」
「桜坂は俺だけが友達だもんなぁ」
「バカ」
萩原に邪魔をされたが、無視を決め込んで、俺は再び本に視線を戻す。
萩原の言うとおりだ。
生徒会長になってから、俺の“友達”は減っている。それは事実だ。
今までの友達は、対等な立場を捨てて、俺よりも低い立場を選んだ。
華蓮学園で生徒会長の地位は高く、カリスマ的存在になるらしいが、俺はそんな憧れを持たれるような人間じゃない。
「やけに廊下が賑わってるな」
萩原の言葉に、俺は廊下に神経を飛ばす。確かに、廊下が騒がしい。
「……確かめるか」
俺は本を机の上に置き、立ち上がると廊下に向かって歩き出した。
萩原も俺に付いて歩いてきた。
「桜坂は読書を邪魔するヤツは大嫌いだもんな」
「なら、お前は一番最初に大嫌いなヤツだな」
「え!?」
騒がしい廊下に、いつもより多過ぎる人の群れ。
……なにか、ある。
艶組の人間が華組の廊下に……?
緊急時以外、お互いの領土に侵入しないという規則があることを忘れたのか?
どう見ても緊急時ではない。
「桜坂、俺ら殺す云々マジだろ?」
「殺さないだろう」
「あいつら暴れ狂ってるぞ」
「……大丈夫だろう」
そう言ったものの嫌な予感がした。
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