華蓮学園高等部
□01.頭は二つも要らない
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「桜坂 要クンじゃないか」
人の壁の向こう側から。
甘く響く声に、俺は苛立ちを覚える。
廊下で騒いでいた人の群れが左右に裂け、声の主が現れた。
明るい茶色の髪は肩につき少しハネている。そして、日本人離れした美しい青い瞳が、俺をとらえて離さない。
「なぜ艶組が、華組の“領土”に、遊びに来てるんだ?」
「要クンに会いに来ただけ」
「……お前一人で来たらいいだろう」
「おや、それは誘ってるのかな? ……だけど、もっと色気づいた口説き文句を聴きたいね」
自信に満ちた微笑みを俺に向ける男は、“エロス軍団”の艶組に所属し、いつも俺に突っかかり、邪魔をする人間。
四条 香哉
容姿端麗で頭脳明晰、家柄も良い。学園内で人気抜群、俺と対立しあうグループのトップで艶組の中でも最も目立つ男。
俺の苦手な人物であり、嫌いな人間だ。
「…四条」
「出来れば、僕の名前を、その可愛らしい声で呼んでもらいたいな。
ほら、セックスしたとき盛り上がらないだろう?」
「……何しに来たと聞いてるんだ」
「華組のトップから退いてほしい」
こいつ、俺に向かって何言ってやがる。
頭でも打ってきたか。
「四条、俺はお前が大嫌いだ」
俺の言葉に、四条は「ありがとう」と口元に笑みを浮かべた。
この余裕綽々な態度が嫌いの一つ。
「そんなに怒らないで。領土を侵入した理由があるんだ。もちろん、要クンに会いに来たんだけど……。
これが落ちてたんだ。“ウチの家”に」
俺に向かって突き出して見せたのは、華組のネクタイピン。
学園の校則には、華組と艶組の見分けやすいように、それぞれ異なったネクタイピン・指輪を身に付けることが義務化されている。
「僕の言ってることがどういう意味か、要クンなら簡単だよね?」
「……!」
華組のネクタイピンが艶組に落ちていることは、華組の人間が艶組の領土を侵入していたことになる。
「桜坂…」
萩原の声が、俺のそばで聞こえてくる。
大丈夫、考えろ。
四条に、負けたくない。
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