あの人の甘い罠に気をつけて

□01.最後の高校生活
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俺たち生徒の間で、最も人気のある先生がいる。“人気”って言うのは、男としての純粋なる憧れ。できる男でおまけに美形で何も言うことなし。

そして、きっと、女の人にモテモテ。ってことで、男子高校生の俺たちは尊敬してる。

でも、みんなと俺は違うと思う。
先生を想うだけで、なんか心臓の音が大きくなったり、する。


たぶん、これは恋だ。

叶わない、報われない、恋、だ。


そう気づいたのは、高1の冬。
でも、俺の胸の内にある感情を先生にぶつけることはできなかった。
そんな勇気ない。
嫌われたくないから。

きっと先生は女の人が好きだから。
俺が変なだけで。
異性と恋愛することが普通だから。


今は、見てるだけ。

あのサラサラな黒髪に幾度触れたいと思ったか。

あの黒い瞳で俺だけを見て欲しい、その視界を独占したい、だとか思ったり。

でも、今は見てるだけ。
それだけで幸せ。

保健室の文字を眺めるだけで、何故か幸せに満ち足りた気分になる。


「奥宮、保健室の前でなにしてんの」

「ははは早瀬先生!?」

声が変に裏返りそうだったから、あわてて平静を装う。けど、遅かった。
早瀬先生は、笑ってる。

俺の好きな人、早瀬先生。

その好きな人の前でしてしまった失態。恥ずかしくなって俯いた。

「HRサボるのか? お前、このままだとクラスで孤立するぞ?」

授業と言ってもHR。
実質、7限目みたいなもの。
どうせ、文化祭や体育祭の出し物でも決めているだろう。
俺は、そんなことより先生に会いたかった。それだけ。言えないけど。

「そうだ、奥宮。少し手伝え」

「え?」

手伝え、という言葉に釣られた。
顔を上げると先生の表情がよく見える。

「返事は?」

傲慢な態度、少年みたいな悪戯っぽい微笑み、どんな表情さえ綺麗だ。
恋は盲目。仕方ない。

返事なんて決まってる。

「はい!」

断れるわけがない。


早瀬先生の後ろを付いて行く。
俺より少し背が小さい。と言っても、ほんの少しだ。
一般的には早瀬先生も背が高い部類だ。ちょっぴり俺が成長し過ぎただけ。

「どこ行くんですか?」

「保健の授業で使う資料を取りに。一人だと行ったり来たり面倒くさいからな」

資料室は3階だ。
高校生の俺も行ったり来たりは面倒くさいと思う。

それにしても、早瀬先生の後ろ姿はかっこいいな。

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