「僕、遠くへ行ってみたいんです。歩いてでは行けないようなところへ。」
いつかあいつがそう言っていた。
だから一緒に出かけようと思った。
何も知らないあいつに教えてやろうと思った。
外の世界をー…
「いつがいい?」
「えっ??」
そう唐突に問えば、目をきょとんと丸くして俺の顔をじっと見ている。
こいつの癖なんだっけ。
「前に言ってただろ、遠くに行きたいって。連れてってやるよ。」
「本当ですか?!…嬉しいですっ…」
「東宮様は忙しいんだろ?だから俺がお前に合わせてやる。」
「勝真殿っ…!!本当に嬉しいです。ありがとうございます。」
「ははっ…別にそんなに礼を言われるような事でもねぇよ。」
こいつが特別素直なせいか、こっちまで妙に嬉しくなって、早く願いを聞いてやりたい、なんて思ってしまった。
「勝真殿……この日は空いているでしょうか??」
***
「かっ…、かつざね…どのっ!!これに乗るのですか!?」
「そーだよ。歩いてじゃ行けない程遠くへ行くんだろ?」
「でっ、ですが…」
怖いです。
と言わんばかりの不安気な表情でこっちを見てくる彰紋。
そりゃあそうか。
東宮様の普段の乗り物と言ったら牛車だから無理もないだろう。
「ー…じゃあやめるか?」
「いいえっ…!!せっかく勝真殿が時間を作ってくれたんです。乗ります!!!!」
ー俺はそこまで忙しくもないが。
「…じゃあ補助してやるから。」
「はいっ!!!!」
やけに気合いの入っている彰紋。
こいつ、無駄に忍耐力があると言うか。諦めが悪いと言うか。
「わっ…!!乗れましたっ!!」
「凄いじゃねーか。じゃあ走るから、しっかり捕まってろよ。」
「はっ、はい!」
そう言って俺の腰に手を回し、本当にしっかりと着物を握った。
今自分の後ろに乗っているのが東宮様だなんて信じがたい。
彰紋は世間知らずだが、それぐらい自然に俺に接してくれた。
ー…相変わらず『殿』は取れないが。
「気持ちいいですね…僕牛車よりこっちの方が好きです。」
「はははっ…本当に大した東宮様だなぁ。」
「勝真殿っ…」
そうして暫く馬を走らせて。
丘の上の、この季節色とりどりの花が咲き乱れる場所に来た。
俺らしくない場所だが、こいつにならきっと似合うし、喜ぶんじゃないかと思ったから。
「わぁ…っ綺麗な場所ですね。」
思った通り、一目見て彰紋はこの場所が気に入ったらしい。
「そいつは良かった。こっちも連れてきた甲斐があったってモンだぜ。」
「ふふっ…色とりどりの花たちを見ていると心が穏やかになりますね。」
「俺にはよく分からないが……お前がそう思うんなら、そんな気がしてくる。それにお前はいつでも穏やかそうだけどな。」
「僕だって、腹立たしかったり、もやもやしてしまう時はありますよ?」
「そうか…」
本当にこいつとこうして話していると、この世に身分なんかなく、皆平等なんじゃないかと思えてくる。
日が暮れる頃、俺たちは再び馬に乗り走り出した。
「勝真殿…」
「何だ?」
「今日はありがとうございました。本当に楽しかったです。……それと」
「ん?」
「お誕生日おめでとうございます、勝真殿。」
「は…?」
自分でもぽかんとしてしまう。
思わず後ろを振り返って彰紋を見る。
「今日は、勝真殿が生まれた日ですよね?だからおめでとうと言いたくて…」
「それで、今日にしたのか?」
「はい。どうしても今日言いたかったので。」
と、少し照れた様に笑った彰紋。
驚いた。
自分でも忘れてたと言うのに。
「あっ!!勝真殿ッッ!!前見て下さいっ…」
「うわッッ!?」
余りに驚いたので、前を見るのすら忘れていた。
「すまんっ…その、余りに驚いて。」
「僕ちゃんと覚えていたんですよ。それで、勝真殿に何をしたら良いのかずっと考えていました。…でもわからなかったんです。やっぱり、僕は世間知らずですね……僕が喜ぶ事も、きっと勝真殿とは違うかなと思って。」
「彰紋……」
「勝真殿、僕何をしたら喜んでくれますか?」
「……バカ。何もしなくていいよ。」
「えっ…、でもっ…」
「お前はそのままでいい。飾らないで、そのまま素直なお前で居てくれるのが一番嬉しい。」
「そ、そうなんですか…?」
「ああ…」
「では、もう一度言わせて下さい。」
ー…勝真殿、生まれて来てくれて、出会ってくれてありがとうございます。
***
勝真BDSS。
勝彰はちょっと特別、ぐらいが良い(*´∀`*)笑
勝真とあっきーが二人乗りはキュン!です。
かっ、かつざね…どの。は必須で★笑