過去拍手
□お正月シリーズ
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―年明け早々、騒がしすぎるんじゃないか。
越前がそう思うのも、無理なかった。
彼女は朝イチで彼の家を訪れ、まだ目覚める予定のなかった彼を無理矢理起こして、あまつさえ彼が嫌がるのを無視して、神社まで引っ張って来たのだから。
『ほら早く、リョーマ』
「何そんなに焦ってんの?」
『別に…なんでもいいでしょ?』
「あっそ、じゃあ帰る」
『あぁっ、ちょっと待って!ちゃんと言うから!』
…彼女がこんなにも焦っている理由、それは越前の遠征が原因だった。
学校からの紹介で、アメリカへの長期の遠征の話がほぼ決まりそうなので、彼女は越前の無事を祈るためにこうして神社に訪れたのだ。
それともうひとつ。
出発するまでのわずかな時間をなるべく一緒に過ごせるように、と…。
俯き気味に話した彼女が恐る恐る越前を見上げると、彼は得意げに言った。
「なーんだ。そんなの、わざわざ神様に頼むほどのことじゃないんじゃない?」
『…え?』
「あんたはその願い、俺に叶えてほしいんだよね?」
こくりと頷く彼女を促すように、ほら、と言う越前。
『…アメリカ行くのは寂しいけど、それまではできるだけでいいから、一緒にいてくれる?』
「いーよ。まぁ、アメリカ行きの話は断るしね」
『なんで!?強い人いっぱいいるんでしょう?』
もちろんアメリカに行くのだと思っていた彼女は、純粋にとても驚いた。
「日本にもまだまだ強いプレイヤーはいるし、放っておけないヤツもいるんだよね」
言葉の意味を理解したのか、彼女は花のように朗らかに笑顔を見せた。
「さぁ、帰るよ」
差し出された温かい手の少し上、肘のあたりに腕を巻き付けて、彼女はより一層彼のことを好きになるのだった。
―ぎゅってしてもいいんだよね…―
離れたくないって、思わずにはいられないから、いつかその時がきたら掴んだこの手が離ればなれにならないように、どこまでも連れていってね――