SHORT
□雪の話
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寒い…。
と思ったら、いつも俺を出迎えてくれる窓がびっしりと汗をかきまくっていた。暖房も湯たんぽもない俺の部屋が、こんなにも気温格差を起こすだなんて…。
「ということは…」
やっぱり。
雪だ。今年初めてのまともな雪が、我が家の窓越しすぐ一面に沢山積もっている。
ん、窓越しすぐ一面?
ここは、
「嘘だろ」
七階だぞ?
今年、
冬の奇跡が、
大反乱を起こした。
★
「よっと」
恐る恐る、窓から外に踏み出してみる。
…どうやら落し穴や幻覚ではなさそうだ。
本物の雪をはむ感触。
中学の修学旅行と称した半強制スキー研修でしか味わった事のなかった、幻の世界。
そう、俺が住んでいる地域ではアラレこそよく降るが、雪が積もるということはめったになかったはず。奇跡的に10センチ積もっても、もともと暖かい気候のため次の日には大体元通り。
そして、そんな生温い県がこんな厳しい気象対策を練っているはずもなく…。
「みーんな仲良く生き埋めか」
って、こんなのアラスカとかでも滅多にないだろうけどな。
自分がエレベーターのない七階建てアパートの最上階に住んでいることを、初めて誇りに思った。
★
まだまだ雪は降り続いている。
流れ的に、我が家も今日中には埋もれてしまうだろう。が、特に何の危機感も沸かない。不思議と、ここ最近で一番心が楽になっていた。別に鬱病だった訳でも、***願望があった訳でもない。そう、たとえば…。
あの日、遠い国の二つの塔が、また更に遠い国の陰謀によって破壊された日、
姉ちゃんはそのニュースを見て「神風特攻隊じゃあるまいし」と、物凄く顔を歪ませた。俺は「これをきっかけにまた始まるんじゃね?」と、同じく物凄く顔を歪ませた。
ただ一つ違ったのは、姉ちゃんは口をありえないくらい「へ」の字にしたのに対し、
俺は口をありえないくらい「し」の字、いや、「V」いや、「三日月」だ!「スマイリー」だ!
そう、スマイリー。
俺は、このような形で新しい世界が始まろうとする事に、今までにない興奮を覚えていたのだ。
かつて自分が通い慣れた、バス停やコンビニの跡地を踏みしめながら…。
俺が彼女と出会ったのは、昔通っていた小学校が埋まっている辺りに来た頃だった。
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