SHORT

□占いの話
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「優衣ちゃん水瓶座でしょ?知ってる?水瓶座は、孤独で冷たくて自由に拘りを持つんだよ!」
「へー…」
「でね、でね!超不器用になるか、天才肌を研くかのどちらかで…あ!今日運勢めっちゃいいじゃん!よかったね!」
「そうね…」

親友の智恵は最近物凄く占いにはまっている。

原因は、この間の修学旅行先で出会った駆け出し占い師。

私は最近はやりの「手相詐欺」を知っていたので引っ掛からなかったのだが、お人好しの智恵は直ぐにその網へと絡めとられてしまったのだ。

「いいじゃん、減るもんじゃないし」


…いや、お前の場合は絶対減る!

しかし一度興味を持ったものはグズグズ離さないのが智恵。
というわけで、私の監視付きを条件に少し視てもらうことになったのだけれども…、

「あなたは、少しお人好しで損をする所がありますね?」
「当たってるー!」
「眼に不思議な力があって、でも全体的にはどこか頼りなくて」
「当たってるー!」
「ロマンチストだけど、実はシビアな所もあるでしょ」
「当たってるー!」


………………。


私には占いとカウンセリングの違いがわからんわ!

まあ、とにかく智恵はそれをきっかけに占い大好き少女になった(ちなみにその占い師を師匠と慕って、メアドまで交換していた)やれ今日は運勢がいいだの、やれ私は誰々と相性がいいだの。

「私、六星占術では今年から大殺界なんだけど、魚座としてはラッキー年なの。どっちを信じればいいと思う?」


…知るかっ!!?


まあしかし。
そんな智恵を結局は嫌いになれない私がいる。

出会ってからかれこれ二年間。もう高校二年なんだから、どうにかならないものか?とも思うのだけれども、そういう無邪気な所が可愛くもあるし、癪に触ることもある。

そんな智恵、


そんな智恵が高三の春、
失踪した。





眼を開くと、そこは見知らぬ天井…。

いや違う。今日からはここが、見知った天井になるんだ。

ふと左を見ると、少し太った裸の男が、そっぽを向いて爆睡中。…いびきを掻いてるってことは爆睡じゃないか。レム睡眠だ。


あれから十年の月日が流れ、私は旅行先で知り合ったこの男と結婚した。
名前は「多田さん」眼鏡がよく似合う優しい人。

彼も水瓶座だった。

「…なんで今そんなこと…」

思い出したのだろう?

「う…」

男のうめきが、遠くに消えた。





「え?」

はじめに出てきた言葉がそれだ。

「だからね…智恵、いなくなっちゃったの…」
「は?」


…理解できなかった。頭がついていけてない。確かに一週間は休みすぎだと思ってはいたのだ。しかも、春休みを抜かしての一週間だ。

「いなくなったって…え、死んだとか?」
「それが分からないの。春休みが終わる一日前の夜に「お菓子買ってくる」って、自転車と一緒に…」
「それって立派な事件じゃないですか!?」
「け、警察にはなんとなく話したのよ…」

智恵に負けず劣らずのお母さんに更にイライラする私。そして、

その春休みが終わる前日、彼女から最後にもらったメールを思い出していた。


『少し早いけどおやすみ☆彡…あ!優衣ちゃん、今月は運命の30日だって!…って、もう一週間くらい終わってる!?( ̄□ ̄;)!!?』


…言っとけ。


そう思いメール返信を止めたきり、彼女とは音信不通になった。

彼女の身元は、今でも不明なままなのだ。





「それは…切ない思い出だね」

コーヒーを飲みつつ彼は言う。甘党な彼には砂糖三つ。甘いものが苦手な私はブラックで。

「でも、自分をせめることなんかないさ」
「そう…?」
「そうさ、運がなかっただけさ」
「…」

あの日から、私は占いが嫌いになった。

大切な人を奪った占い。…いや、救えなかった、私の人生を変えた占い。

いや、違うか…。

『優衣ちゃん!水瓶座今日のラッキーカラーはサーモンピンクだって!ださーいっ!!』


…ばーか。


どうしてだろう。馬鹿らしすぎて涙が出た。

私は彼女だけには、死んでほしくなかったのだ。





あれから一ヵ月。智恵からの連絡はなかった。

暦はまもなく、初夏の月へと移り変わろうとしていた。

高三という時期の所為もあってか、私はまた新しい友達を作る気になれなかった。もともと向いてないのだ。智恵の時だって、擦り寄ってきたのはあいつだ。

『優ー衣ちゃん!お昼どうしよう?』

…普通は『お昼一緒に食べよう』でしょ?主体性に乏しいやつめ…。

ふと、たまに思い出し笑い。…不謹慎なのは十分承知。でも、ついつい笑ってしまう。智恵を思い出すと。

彼女はいい意味で痛い子だったから。

「…さん、お昼、一緒に食べない?」
「…いいけど」

机を合わせて弁当を広げる。相手は今年から知り合った子。彼女もまた、どこのグループにも入らず独り身だった。

一緒に机を合わせてはみたものの、会話は続かない。私はもともと喋らないタイプだし、彼女は喋ろうと話題をふってきても、それを長続きさせるコツを知らない。それなのに、無言が恐いらしい。彼女は喋りが苦手なのに、喋り続けないと不安なタイプの人間だった。

…私はそういう悪いほうに痛い人間は苦手だった。

もし、智恵なら…

『優衣ちゃん、あのね、きにょう、あ、噛んだ。昨日映画観てさー』

「ふふっ」
「え?」
「あ…いや、気にしないで」

智恵はこういう時、相手の反応を深刻に気にしない。いざとなったらかなり深刻モードになるのだけれども。
案外あの占い師が言っていた「ロマンチストだけど、実はシビアな所もあるでしょ」というのも、結構的を得ていたのかもしれない。





智恵からの人生最後の電話が鳴ったのは、その日の夕方だった。


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