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□color 第1章
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1.序章
雨だ。
窓の外を見ながら「後悔先に立たず」を身に染みて感じている人物が一人。
外には幾つもの無機質な建物が、空を覆い尽くさんばかりにそびえ立っている。
押し潰されそうな圧迫感をひしひしと感じつつ、まるでそうするのが当たり前であるかの様に、為す術無く空を見上げていた。
「こんな事なら皆と一緒に帰っておけば良かったよ…。」
あぁ、遂に独り言が。誰も聞いてないけど。
「で、」
一息吸って。
「何で私がこんな目に合う訳!?っていうかここ何処よー!!」
…何も無い空間に叫んでいる人物は取り敢えず放って置いて、状況説明だけでもしておこう。
事の起こりは一時間前。いつも通りに授業に出て、いつも通りサボる友人達を尻目に、これまたいつも通り部活に顔を出すべく音楽室へ行ったのだが…。
「(だ、誰もいない!)」
…と思ったら音楽室じゃないし……!!
入ってきた扉は全く別のデザインだし、そもそも周りにあるのは見たことの無い物ばかり。
兎に角、扉が開くかどうか調べる事にした。
「(開かない…。)」
その後も、叩いたり押したり引っ張ったりしてみたが、一向に変化無し。
キズ一つ付かない頑丈さに、何もする気力が無くなり…そして、不本意ながら現在に至るのだった。
「(お腹減った…。)」
そういや、お昼抜いたんだっけ…とタイミング悪く食いっぱぐれた事を思い出す。駄目だ、余計お腹が。
何とか気を逸らす方法は無い物か?視線を周囲にさ迷わせた。
「ん?」
ある物に目を留めた。
そこには、一台の…この場所にはそぐわない、古めかしいピアノ、だった。