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□color 第1章
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2.新しいセカイ
彼は、この時代に存在しながら、この時代の人間では無かった。
自分にとって、「飛ばされる」のは、別段珍しくはないのだが、今回の様なケースは非常に稀だった。
帰れないのである。
途方に暮れ、体力も尽き、もう駄目かと思った矢先に「拾われた」のであった。
「もう一回言ってみな。」
「『人間拾って来た』。」
「……………何処で?」
「路地裏。」
「…アンタね、何回言わせる気なの?」
眼鏡をかけた少女の額には、うっすら青筋が立っている。だが少年の方はと言うと軽く聞き流す体勢を取っている。
どうやら日常茶飯事らしいな、とひとりごちた。
「…まぁ、連れて来ちゃったのは仕方無いか。」
こう言って結局折れる羽目になっている事を複雑に思いながら、拾われた人物に視線を投げる。
目の保養。たまにはこんな事があっても良いと思う。
「あの、迷惑なら帰りますけど…。」
「帰れない」
「あー…。」
「さっき説明した。普通の方法じゃ帰れない。」
恐らくこれが少年の「普通の」喋り方なんだな、と要らん事を考える。
「良いんですか?」
「放り出す訳にもいかないでしょうが。心配しなくても売ったりしないわよ。」
「な…っ!」
「冗談よ。」
酷く混乱した。もう何が冗談なのか解らない。頭を抱えていると、不意に肩を叩かれた。
「大丈夫、姉さん美形に弱い。」
「……真顔で言われると滅茶苦茶返答に困るんだけど…。」
「まだ名前聞いてない」
「あら、そう言えば。」
普通の会話は出来ないのか?と思ったが、やめた。また余計な会話が発生する。
「……『シン』だ。」
「よろしく、シン」
「よろしく。まぁ『コミュニティ』の場所くらいは探してあげるし。」
「あそこだったら帰る方法見つかるかも」
…………え?
「『コミュニティ』?」
「シンみたいな人達が集まってる所ね。ただ…。」
言い淀む。一体何なんだ?そして次の一言で地獄に落とされた。
「いちいち場所が変わるから、いつ見つかるかは解んない」
もう勝手にしてくれ…。
期待せずに待つしかなかった。