音のない森
□Soundless Voice 一章
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雪が降る季節に、開いた口が塞がらないとは正にこの事だと思い知った。
それもその筈。
3、4年程前に愛しい恋人は、戦で戦死したのだ。
確かに、辛いのを耐え涙を耐え葬儀に出席した。それを、あいつは望んだだろうから。
例え相手方の親族が、心が無い、冷徹だ、流石は毛利の息子だ、と陰口を叩いても俺は棺の前で笑ってあいつを見送った。
大好きだったから。
あいつは、俺の笑ってる顔が大好きだったから、手向けたのだ。
未だに心は癒されず、嫁すらいない俺は正に一族の恥だな、と少しばかり自嘲している所に例の客人……あいつの実妹が一人の青年を連れてやってきた。
見たときは驚いた。
どう見ても、あいつにしか見えなかったから……。
「は、なんの冗談だ?」
「何が」
「また、五龍にでも頼まれて、似た奴連れてきたんだろうが………残念だが、俺はあいつを愛してんだよ」
「……別に、頼まれてなんかないけど」
「じゃあ、何だってんだよ!!あいつの偽者用意して!!」
「………私は、同情なんてしないって知ってるでしょ。したって意味ないし。ただ、少しこっちもゴタゴタしてるから、預かって頂こうかと思って……ね?兄様」
「は?」
不意に飛び出してきた単語に、固まった。
「い、今何て」
「………兄様、よ。信兄様じゃないけど、私にとって兄様なの」
寂しげに笑って、怯えるそいつを優しく撫でてじゃあ、と去って行った。
「何だったんだよ……」
まるで嵐だ。
クソッ、と再び視線をそいつに向ける。
白い肌、透き通るような美しい銀髪……片目を眼帯で覆っているが、とても綺麗な赤目。
見れば見る程に、あいつに似てる…。
ああ、だめだ。だめだ!!
「で、名前は?」
問えばキョトンとする、君。
あれ?この反応って……まさか。
「名前、無いとか?」
小さくコクリと頷いた。
ええ、名前無いって……何それ。
「えと、じゃあ何て呼ばれてた?」
「……兄様」
手の中の煙管がバキリと良い音を立て、折れた。
そりゃ、呼ばれてたけど。
仕方ないから、俺が付けることにした。
「じゃ〜………ハクト。白兎って書いてな」
よろしく、白兎。
そうやって撫でた時の笑顔が、よく似てた。