気まぐれあの子の小武士道

□過去と今と
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「土方先生、さよーなら〜!」
「おう。気ぃつけて帰れよ」
「はーい!」

生徒を見送り、残った書類を片付けるために、俺は職員室へと足を向けた。

土方歳三。
俺は昔、新選組の副長をしていた男だ。
戦の途中に銃で撃たれた時、俺は、死んだはずだった。
それが、気づいた時には、この平成の世で高校の教師をやっていたのだ。

「あれ、土方さん。まだ帰らねえのか?」
「あぁ。まだ、試験の採点が終わってねえんだ」
「そっか…俺らは先に帰るけど、あんまり無理すんなよ?」
「誰に言ってんだよ」

この学校で教師をしているのは、俺だけではない。
今話をしていた原田の他に、近藤さんや山南さん、新八も教師としてここにいる。
それに、新選組の仲間だった総司や斎藤たちも、生徒としてこの学校に通っている。
皆、俺と同じように、昔の記憶がしっかりと残っているようだった。

「副…土方先生。無理をなさっておりませんか…?」
「何の事だ?…斎藤、もう暗いんだ。さっさと帰れ」
「………はい。失礼します」

ここでは生徒の斎藤が、当番日誌を俺に届けた後、礼をして帰って行った。

斎藤だけじゃない。
皆が俺に、無理をしているのではないかと聞く。
その理由は、分かってる。
俺が副長時代、大切に思っていたあいつが…あいつだけが、俺たちの周りにはいないからだ。

なぁ…どこにいるんだ優希?
お前も俺たちと同じように、この平和な世のどこかに生きているのか?
俺たちのこと、覚えててくれてるのか?
それとも―――

「……ハァ…考えたって、仕方ねえか…」

頭を振って、暗い考えを払拭する。
きっと、自分が思っている以上に、疲れているのだ。
今日はさっさと帰って寝てしまおう。
そう考えて、俺は目の前の仕事をさっさと片付けるために、赤いインクのペンを持ち直した。


   †††
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