騎士と・・・(ゆめ)


□No,009
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ポタンッと水が落ちて、一瞬にして氷と化す。


「…一昨日の夜の血臭事件について
…結局何も知らされなかったよね僕たち…」

「俺は別に興味ないね…」

「あれさ…優姫ちゃんの血の匂いが混ざっていたんだ。
でも、誰の血の臭いだろう…」


明け方の話だ。






















次の日の朝

「怒ってるんだからね零っ。
何も…話してくれなかったこと…どこ行っちゃうつもりだったの…」

「……始末をつけに―――」


優姫は零を引っ張りながら理事長室に向かった。
ノックをして入ると理事長は夜間部(ナイト・クラス)の制服を持っていた。


「おはようっ!いいところに来たねっ。
見たまえっ。錐生くんのための夜間部(ナイト・クラス)制服だよ。」


錐生は勢い良く理事長にビンタを喰らわせ、


「出てく!」

「ちょっと、理事長!!」

「一応言わせてよ。
ボク理事長だから立場上さぁっ大分元気になったみたいだね。」


殴られた、頬をさすっていた。


「理事長、俺はこれで。」

「ついでに、空琅君も夜間部(ナイト・クラス)に行ってみる?
絶対上手くやっていけると思うんだけど…?」

「………遠慮します…」


先に理事長室に来ていた空琅は、書類の入っている封筒を持って出て行った。


「あれ、空琅どこに行ったんですか?」

「チョッとしたお使い……
…さて優姫…言いたい事があるんだろ。」



「はい。」



















空琅は理事長から頼まれた書類が入った封筒を持って、『月の寮』に向かっていた。



「これ、枢くん宛なんだけどね、ちょっと手が離せないから、届けておいてくれないかな?」




と言う、理事長の頼みで枢に届ける羽目になった。


「はぁ。」


裏門を通って『月の寮』に入っていった。
寮の中に入るとロビーには人が居なかった。
遠慮無しに中に入っていく。
ツカツカツカと枢の部屋に向かう。
部屋の扉をノックすると中から枢の声が聞こえた。


「どうぞ。」


空琅が中に入ると、枢が驚いた顔を上げた。


「(顔色が悪いね。)空琅……君がここに来るとは…意外だね。」

「これを届けに。」


封筒を枢の目の前に置き優れない顔色で、空琅はそう言った。
元から白い顔がさらに白くなっていた。


「それじゃぁ。」


空琅は、封筒を置き終わると直に立ち去ろうとした。
そこで、枢がクスリと笑った。


「それ、付けてくれてたんだね。」


ピタッと空琅の足が止まった。
それと言うのは、聖(サン)ショコラトル・デーの日に枢が空琅に渡した物だ。
ダークレッド色のピアス。


「……別に…」

「ふふ。ちょっと待って。」


枢は書類に目を通し始めた。
その間空琅は、ただ立っていた。
すると、急に空琅の表情が厳しくなった。


「……玖蘭先輩。
優姫が…藍堂先輩に…」


その言葉で察した枢は空琅に部屋で待つように言って、部屋を後にした。











ロビーに行くと空琅の言う通り、藍堂と優姫がいた。


「やめなさい優姫…」

「枢センパイ…」

「玖蘭寮長…」


枢は藍堂を叩こうとしていた優姫の手を止め、藍堂の頬を叩く。


「誰がこんな事望んだ?」

「いえ………出過ぎた真似を致しました。
申し訳ございません枢様―――」

「下がれ。」


藍堂は、静かに下がった。


「嫌な事を言われたみたいだね…
ごめんね優姫…」

「いえあの…」

「いいんだよ優姫だけはそのままの優姫で、優姫には温かみがある。
それで充分だよ…」


枢は優姫の頬に触れる。


「……さあ、もう時間だ。
今度から一人でこんな所に来ちゃダメだよ。
錐生くんでもいいから一緒に来てもらいなさい。
それに、空琅も居る。優姫から奪ったものがあるし、怖い思いをさせた彼は。
錐生くんは、それくらい役に立つべきだ。」

「やめて下さい…どうしてそんな言い方。」

「………優姫、平気ではいられないんだよやっぱり…
大切な娘(こ)を、恐がらせたんだから。」


優姫を見て、寂しそうな顔で言った。
極浅い傷であっても許したくないんだ。
すると丁度扉が開く。零が立っていた。


「…お迎えが来たか
…そろそろ昼の世界にお帰り優姫…」


優姫の肩をトンと押して背を向けた。
枢が部屋に戻る途中に架院が立っていた。


「玖蘭寮長がそこまで彼女に執着する理由が分かりません。
貴方は『夜』の世界の…」

「“彼女”は世界でただ一人の…大切な娘だよ…」

「……?…」


架院は不思議そうな顔をして枢を見送った。







枢が部屋に着くと空琅がまだ立っていた。


「座っていても良かったのに。」


枢は机の上に上げていた書類を封筒に入れ、空琅の方を向いた。


「理事長に、確かに受け取りましたって伝えてくれるかな。」

「分かった。」


空琅は、枢の元に行き封筒を受け取る。


「それも、付けてくれてたんだ。嬉しいな。」


制服のワイシャツの胸元に見える物を見て、枢は微笑んで言った。


「……別に…」


聖(サン)ショコラトル・デーの日に、ピアスと共に渡した物が、第二ボタンまで開けているワイシャツから見えていた。
空琅は、チェーンが通った指輪(リング)が見えないように、空琅はボタンを仕方なく閉めた。
ピアス同様ダークレッドのルビーが嵌め込まれていた。
空琅は、宝石などが好きと言うわけではないが
ダークレッドの色が気に入って普段からつけている


「…俺はこれで…」


先程より顔色が悪くなっている。
空琅は、急いで部屋を後にしようとした。
しかしそこで、糸が切れた人形のように倒れた。
空琅の目の前は真っ暗になり、そのまま意識を失った。
バタンと音を立て盛大に空琅は倒れた。
枢は目を丸くした。


「空琅!?」


駆け寄って意識があるのか確認するが、全く反応が無い。
そのまま枢は空琅を抱き上げ、隣の部屋のベッドに横にさせた。
その部屋は普段、枢以外が入ることは無い。
なにせ、枢の寝室を一度と通ってからでなければ入れないのだから。














end.
 

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