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□それは優勢になく、劣勢に非ず。
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「た〜いちょ」
そう暢気に呼び掛ければ、返事は無く、目線だけを向けて見つめてくる。
ま、あの目付きは寧ろ睨んでいると言う方が正しいかしら。
それを感じつつも気付かない振りで、煎れたてのお茶をスッと差し出す。
「お茶ですよ、どうぞ♪」
「ありがとう…。」
「いぃえ♪」
お礼だけはちゃんと言う、律儀で素直な貴方。
「………で、書類は大方片付いたのか、松本?」
そして、そぉゆう事を言うのも忘れない。
「ヤだなぁ、そんなに早く終わる訳ないじゃないですかぁ♪」
「…テメ…ッ!!」
ま、あたしがいつも仕事しないからなんだケド。
「そんな恐い顔しないでくださいよぉ♪折角の美味しいお茶が冷めちゃいますよぉ。さっ、早く飲んで飲んで♪」
「お前…分かってねぇな…。」
あたしは仕事をしない。これは事実。
でも、自慢じゃないけど、お茶を煎れるのは得意。
隊長に、美味しいお茶を…。
何たって、こう毎回やってるんだからね。
それにこの隊長はこう見えて甘い物よりお茶のような渋い物が好き。
そう、毎回……仕事のしないあたしが、彼の機嫌をとるために毎回毎回……そうしていれば、自然と益々上手くなるってもんよ。
何だかんだで、あたしはこの隊長を丸め込む術を知っている。
今だってほら、あぁ言いながらも隊長はあたしの煎れたお茶を口に運んでいる。
「どうですか?美味しいでしょ?」
「あぁ…。」
そうして、あたしの机の上に溜まった書類なんて忘れていく……まぁ、頭の良いこの人の事だから、すぐに思い出すでしょうけど。
「…松本、お前の茶汲みの腕はもう分かったから、早く仕事に戻れ。」
「……チッ」
突いて出たのは、短い舌打ち。
それは勿論貴方の耳にも届いたようで、瞬時顔を引き攣らせる。
「……今日中に終わらせなかったから、減給にするぞ…」
そして、最恐の煽り文句。
「えぇ〜!!」
「えぇ〜じゃねぇ!それが嫌ならとっとと進めろ!!」
「分かりましたよぉ〜…」
あたしにとって、多分一番利き目のある、隊長がよく使う手段をとられ、渋々書類の山の待つ机へ戻る。
でもこれも知っている。
優しい貴方は、何だかんだ言いつつも、見るに見兼ねて結局最後はあたしの仕事を手伝ってくれるんだから。
「……言っとくが俺は手伝わねぇからな。」
そんな考えは見透かされていたようで、それを拒否するように言われる。
「ケチ!」
「てめぇ、よくそんな事が言えるな…ヤ」
「何度でも言えますよ。ケチ!ケチ!隊長のケチー!!」
「いい加減にしろよ松本ヤ……はぁ…」
わざとらしく言ってやれば、貴方は呆れたのか諦めたのか、溜息を吐いて再び自分の仕事へと意識を集中しだした。
そんな姿にあたしは一人面白くない顔をしてみせる。
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