紅ニ染マル轍


□紅葉狩
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今は昔。
京より遥か遠く離れた地に、水無瀬(みなせ)という集落があった。

その地には、ある伝承が残されている。

子供に恵まれなかった夫婦が第六天魔王へと祈りを捧げ、一人の女児を授かった。
名を呉羽(くれは)と付け、たいそうこれを可愛がった。

しかしその子供には稀な妖力が備わっていたという。

やがて美しく成長し、成人となった呉羽は紅葉(もみじ)と名を変え京へと上る。

才色兼備であった紅葉はすぐに源経基の目にとまり、腰元となり局となり、やがて子を懐妊した。

しかし同時期、宮中には病が蔓延する。
原因不明のそれに宮中の者たちは苦しみ、比叡山より老僧を呼び寄せた。


そして老僧により、病の原因が紅葉の呪詛であったことが明らかになった。


それを原因に身重の紅葉は水無瀬へと追放されてしまう。
水無瀬へと下りた紅葉は子を産み、静かな生活を送っていた。

紅葉は元より持つその力、そして医学や学問に通じていた故に集落の人々から重宝され、慕われていた。

しかしそんな生活も長くは続かなかった。

ある日を境に紅葉は人が変わったように荒んだ心を持ち、党を率いて近くの村々を襲うようになった。

この噂はすぐに都まで広まった。




水無瀬には鬼女が巣喰う。




これを聞きつけた源経基は鬼女討伐のために平維茂を水無瀬へと送る。
しかし紅葉の妖術により次々と阻まれ、維茂は頭を悩ませた。

紅葉に太刀打ちする術も見あたらず、途方に暮れていた維茂の夢枕に、ある日老僧が現れた。
そして降魔の剣を授ける。







紅葉は降魔の剣により首をはねられ、命を落とした。

紅葉が真っ赤に染まる、赤い、赤い季節だった。








やがてその地は鬼女がいなくなった里。










鬼無里(きなさ)と呼ばれるようになった―――。










−鬼女−



20090509
 

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