Re:Call
□朝のゴミだし
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ああ重い。
両手で掴んだ袋の結び目を握り締め、ズルズルと引きずり歩く。
夏の雰囲気がまだ残る、九月に入ったばかりの朝の清々しい日差しの眩しさと、軽快な小鳥の囀りとは相反する手荷物にげんなりとした。
大きくため息を吐き出し、前を見ればゴール地点。
ゴミ捨て場まではあと十メートル弱といったところ。
大した距離ではないが、この大荷物ではかなりの長距離にも思える。
何で今日に限って生ゴミまで量が多いんだ。
これからは少しくらいゴミ削減に取り組んだ方がいいのかな。
重さに痺れてきた自分の手を哀れむように見つめ、思わずうなだれた。
ああ、でもあまりのんびりしてると遅刻だ。
再びため息をついては、ズルズルと両手で持ったゴミ袋を引きずりながら歩き出した。
が、あまりに長い間引きずっていたら、当たり前だが袋に穴が空いてしまう。
ああ、もう手がもげる。
指にビニールが食い込んでいくのを耐え、渾身の力で袋を宙に浮かす。
そして地面スレスレの位置を保ちながら、ゆっくりと歩き出した。
「おや」
「!?」
歯を食いしばりながらゴミ袋を手に、おそらくそうとう必死な顔をしたであろう私にかかる声が一つ。
低く、しかし柔らかな声音は今では馴染みのものであり、実は聞くのが楽しみだったりする。
とりあえず声の主に視線を向けるべく、一度ゴミ袋を地面に下ろした。
そして振り返れば、見慣れた笑顔がそこにある。
「あ…白緑さん、おはようございます」
「おはよう、ゴミ捨てかい?」
「はい…まあ…」
「奇遇だね。私もちょうど今なんだ。」
邪気がないというのか。
とにかく穏やかな雰囲気を纏ったその人は、片手に持ったゴミ袋を軽々と持ち上げては笑った。
…是非とも腕力を分け与えて欲しい。
見た目は繊細なイメージの綺麗な男の人なのに、やはり力があるのは頼もしい限りだ。
そんなことをぼんやりと思っては、チラリとゴミ袋2つを見ては内心ため息をついた。
「…、重そうだね」
「え?あ、いえ!全然!」
「私が片方を持とうか?」
「そんな!全然大丈夫ですよ!」
「……、」
思いもよらない親切に、慌てて首を激しく左右に振る。
お陰で少し目が回った。
が、そんなことを気にする場合ではない。
しかしそんな私に一瞬だけキョトンとした様子を見せたその人は、ささっと私の隣に立ち2つある袋の1つを取ってしまう。
あああ、そっちは生ゴミだから余計持たせたくないのに。
「本当に大丈夫ですから!」
「遠慮することはないよ」
「いや、でも」
「これでも力だけはあるからね」
「そうじゃなくて」
「それに息子とクラスが同じでいつもお世話になってるし」
「全然そんなことないです!」
「ご近所付き合いは楽しくやっていきたいしね」
「いやだからってそんな私なんかのゴミなんか!」
「ほら、着いた」
「あ」
軽々とゴミを手に、さっさと歩いていくその人に、必死に言い聞かせている間に気付けばゴール。
ドサッと白緑さんがゴミ袋を下ろすのを見ては、ひどく申し訳ない気分になった。
「あー…本当にありがとうございます」
「どういたしまして」
申し訳なそうに頭を下げながら言えば、相変わらずの笑顔が向けられる。
それに一瞬だけ体温が上がったような錯覚に襲われ、反射的に俯いてしまった。
そして再び「ありがとうございます」と口にすれば、「また困ったことがあったら手伝うよ」という答えが返ってきた。
「あ、そういえば学校の時間は大丈夫かい?」
「ああ!もう行かないと!」
後5分で出ないと校門が閉まってしまう!
「それでは気をつけてね」
「えっあ、はい!本当にありがとうございました!」
大きく頭を下げて、バタバタとその場から駆け出す。
慌てて家に戻って準備をして再び家を飛び出し、走って学校を目指した。
…その間、今朝の出来事が頭からなかなか離れるわけもなく。
今晩の夕食は多めに作って、お礼の代わりにおすそ分けをしようかなどとぼんやりと考えていた。
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20090813