紅ニ染マル轍


□猫の鳴き声
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奇妙な縁だと思う。
ぼんやりと自分より少し前を歩く男の背中を眺めた。
同時に耳をつく、下駄の軽い音。
すっかり聞き慣れたそれは、今では日常の一つとなっていた。


「何か」
「!…いいえ、何も」


視線に気づいたのだろう。
彼は振り返り、私を見る。
それに淡々と返せば、彼はそうですかと一言答えて歩き出した。

本当に、奇妙な縁だ。

どうしてこんなに無関心で淡々とした男と行動を共にしているのだろう。
けれども何故ついてくるのか、何故つれていくのか、どうして共に歩を進めるのか、なんて問いを互いに決して口にしなかった。
それを互いに訊かないことは、無意識にも暗黙の了解となっていた。
あの村を出てから何一つ変わらない。


「………」

変な関係だな…。

小さく苦笑を零してみれば、彼は再び私を振り返る。
その様子に首を傾げれば、藤色に染められた長い爪がついっとどこかを指差した。

「?」

指差した先には、家紋らしきものが描かれた暖簾の垂れ下がる大きな屋敷。
その周りには何人もの人だかりができ、賑わっている。


「…何か祝い事でもあるんですかね…」
「……さあ」
「!って…ちょっと薬売りさん…」


生返事を返しながらも、彼の足は迷いもなく屋敷の方へと向かっていた。
慌ててそれを追いかければ、ふと、その屋敷の敷地に踏み込んだ途端に奇妙な違和感を感じる。

「………?」

気のせいか。
いや、あるいはいつもの。
大して気にとめることはないと、構わずに彼を追う。
するとちょうど門の前に立っていた男が、今日は姫様の輿入れだとか何とか言っていたのが耳につく。
確かにそんなところに薬売りが来ても、売れるわけもない。
しかしその忠告をこの男が素直に聞き入れるはずもなく。
構わず暖簾をくぐり抜け、先へと彼は進んでいく。
それをただ追いかけていけば、先ほどの男の言葉通り、中庭では笛やら太鼓やらと、宴会の雰囲気が十分なまでに漂っていた。
そして鼻孔につく酒の匂い。
この匂いはあまり好きではない。
少しだけ呼吸を抑えた。
するとその中を通っていく途中に、明らかに酔ったような男たちの声が耳朶を打つ。
不快極まりないそれらに眉をひそめたが、彼は顔色一つ変えない。

本当に、無関心な男だな。
ため息をつきながら、何気なしに辺りを見回した。


「………」


それにしても、





「…ずいぶんと猫が多い屋敷ですね…」




足元にすり寄ってきた小さな猫を、そっと撫でた。



/12話へ続く
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