見てろよ神様
□白と紅と浅葱色
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「まさか、お留守だなんて……」
『電話とか無いとほんと不便だね…』
「電話?」
『あ、いや。こっちの話し。』
なんと唯一の頼りだった松本さんはお留守。しばらく前から京を離れているらしい。
「父様…」
『…』
松本さんが居なかったのがよっぽど堪えたのか千鶴の表情からは不安の色が見てとれた。
うむ、ここは私が何とかせねば!
『大丈夫だって千鶴。しばらくここに居れば松本先生も帰ってくるかもしれないし、偶然お父さんにも会えたりするかもしれないよ?』
「…でも」
『それに千鶴は1人じゃないじゃん。なんたって私がいるんだしぃ?』
ニヤリと笑って見せる。
「…うん。」
『そんな暗い顔しないでって!…まぁ、私に出来ることなんてたかが知れてるけどさ〜』
そう言うと千鶴はクスクスと笑った。うん、千鶴はやっぱり笑った顔が1番良い。私が今千鶴にしてあげられることはこれぐらいだから。
「うん…なんとかなるよね!そうなったらまずは泊まる場所を探さなくちゃ。」
千鶴は両手で小さくガッツポーズをして大股で歩きだした。私はそれに着いていく。
でもそんな希望の兆しが見えたのは一瞬で、
「おい、小僧。」
「!」
『?』
後ろを振り返るとそこには3人の男。またこのパターン…
「……何か?」
千鶴が冷静な声色で返しながら腰の刀に手をかける。
「ガキのくせに、いいもん持ってんじゃねえか。」
「寄越せ。国のために俺たちが使ってやる。」
「これは──」
どうやら千鶴の腰にあるこの刀が目あてらしい。だが千鶴は言葉を濁す。これは千鶴にとって大切なものみたいだ。
『千鶴、』
「!」
私は小声で千鶴に声をかけ、先ほどから漕がずにひいていた自転車に股がる。千鶴は私の意図を察したかのように無言で頷いた。
バッ
「──あ!?おい、待ちやがれ小僧!」
千鶴が荷台に乗ったのを確認すると私はペダルを蹴った。前科もあった為、息はばっちりだ。
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「もう、しつこいなあ……!」
ずいぶん走ったような気がするけれど、男たちはまだ怒鳴りながら追いかけてくる。
いくら、現役運動部の私だって体力の限界というものがある。
いい加減疲れた…
『ち、千鶴…もうその刀あげちゃえば?』
「そ、それはひどいよ紫帆ちゃん…」
と、そんな最低な発言をしてしばらくしたあと、やっと男が見えなくなった。それを確認して、私たちは家と家の間に身を滑り込ませた。
『ぜーはーっ、はーっ…』
「大丈夫?」
『流石にちょっと、疲れた…』
「うん、お疲れさま。でも気づかれたら大変。ちょっと静かにしてて。」
『それこそひどくね?』
私はここまであんたを乗せて2ケツしたっていうのに…
そんなことを言っても千鶴の言っていることは正論なので大人しく従う。しかし、いくら待っても男たちは現れなかった。
でも、その時、
「ぎゃあああっ!?」
どこからか絶叫が聞こえて来た。おそらく先ほどの男たちのものだ。
「な、何……!?」
突然の大きな声に私と千鶴は身構える。
「畜生、やりやがったな!」
「くそ、なんで死なねぇんだよ!…駄目だ、こいつら刀がきかねえ!」
男たちの怒鳴り声はなおも続く。
おそらく今そこでは斬り合いが行われている。そう考えると怖くて体が震えた。
千鶴は路地から顔を出し、駆けてきた道をのぞき込んでいた。顔面蒼白で恐怖で今にも気絶しそうな状態だ。
そして、その視線の先には思っていたよりも、もっとひどい光景。