見てろよ神様

□笑顔の裏に隠された
2ページ/2ページ


私のギャグ百連発は不発に終わった。



『ちょ、途中で止めないでよ。最後まで聞いて!』

「だって先が読めちゃったんだもん。」

『芸人にとってね、ネタを遮られるのと先読みされるのは何よりも屈辱的なことなんだよ。』

「紫帆ちゃんって芸人さんだったの?」



それは例えばの話しだよまったく…私はやれやれとため息をつく。

つか千鶴コンドルなんて知らないはずなのになんであんなにツッコミ早いの?



「そういえば、土方さんって今大阪に出張してるんだっけ?」



そんな私の気持ちなんか知るよしもなく千鶴は今思い出した、というように口を開いた。



『あー…なんかそんなこと言ってた気がする。』

「……」

『…千鶴?』

「これって鬼の居ぬ間に何とやら…?」

『え゙』

「そろそろ父様のことも探したいし、誰か隊士さんに頼んでみよう!」



そう言って千鶴は勢い良く立ち上がった。
何でいきなりそんなやる気に?



「紫帆ちゃん!行くよ!」

『え、やだよートイレ行きたい訳でもないのに。』

「紫帆ちゃんはトイレのことしか考えてないの!?」



私の返答に鋭いツッコミをいれる千鶴。
何だかさまになってきたな…



「それにさっき暇だって言ってたじゃない!」

『暇は暇だけど、また平隊士の人とかにも絡まれたら面倒だし、そんなリスク背負う位なら部屋で大人しくしてた方がマシ。』

「もーそんなんじゃいつまで経っても現状は変わらないよ!」

『嫌だよ〜必要以上に人と関わりたくないんだよ〜』

「引きこもり発言しないの!」



嫌がる私を引きずって千鶴はどんどん進む。何でこんなに頑固なんだ…

でも、私がこんなに拒むのだって理由がある。何か今日は嫌な予感がするんだ。会いたくない人に会いそうな…そんな気が…

そしてちょうど中庭にさしかかったとき、



「…あ、おはようございます斎藤さん、沖田さ」



バビュンッ



私は千鶴がその名前を言い終える前に走り出した。



「えっ!?紫帆ちゃん!?」



千鶴が突然のことに驚いて声を上げるが今はそんなこと気にしていられない。

予感的中ぅぅぅー!!!
何だこの無駄な予知能力!



「ハハッ紫帆ちゃん人の顔を見るなり逃げるのは失礼なんじゃないかな?」

『ぎゃあああ!』



やつはすぐ後ろまで追ってきていた。足速っ!



『ちょ、何でついてくるんですか!』

「あはは、だって君が逃げるから。」



やつはあの独特の恐ろしい笑みを浮かべながら走ってくる。

私はやつが…沖田総司が苦手だ。
何でって、ファーストコンタクトが最悪だろ!

目が合うなり死ぬの待ってれば良かったんじゃね?発言ですよ!そりゃ警戒するわ!めっちゃ恐えよ!

人見知り云々の前に普通に接する人が居たら是非とも拝んでみたいもんですな!……いや千鶴はアレだよ、その…アレだから…いいんだよ。

つか何でついてくるの?
私のことはほっといて!



『いや、あの…トイレ!急にトイレに行きたくなったもんですから!』

「トイレ?」

『厠のことでっす!』



ああ〜この時代で横文字は通用しないんだった!いい加減学習しろ私!



『だからついて来ないで下さーいっ!』

「なら行く必要ないじゃない。さっき君べつに厠なんて行きたくないって言ってたし。」

『地獄耳!?』



千鶴との会話聞いてたぁぁぁ!
どんだけ地獄耳!?だいぶ離れてたと思うんだけど!



「てゆうか君逃げ足速いね。」

『はい!私の長所ですから!』

「ほんとすごいよ。その短い足で僕と同等に走れるんだから。」

『えーっ照れちゃうな……?』



あれ?今けなされた?褒められた?



「まあでも長所はそれだけみたいだね。なんか馬鹿そうだし。」



そう言うと沖田さんはピタッと急に止まった。

急にどうしたんだ?もしかしてもう疲れたとか?…新選組の沖田総司ともあろうお方が平々凡々な16歳の女の子私相手にギブアップ?


『………ふ、』



ブワハハハッ!勝った!やつに勝った!

何だ沖田総司!殺す殺す言ってて全然大したことないじゃないか!所詮、口だけの男、この紫帆様には敵わないのさ!

ザマーミロ!これに懲りたらもう私に二度と突っかからないことだな!

私を崇め、敬い、讃えよ!
そして跪いて地にひれ伏すがいい!

私は堪えられずグフフと笑みをこぼす。
気持ち悪いことは百も承知だ。



「楽しそうなところ悪いけど一つ忠告しておくよ。」

『?』



やつがニッコリといった表現がピッタリな笑顔で言った。うん格好良いよ…格好良い…だってイケメンだもの顔だけは。



「走るときはちゃんと前見て走った方がいいよ。」

『へ?』



そう言われ前をみると目の前には壁が。



『ゴフッ!』



バタンッ



私は顔面を強打し後ろにぶっ倒れた。
い…っ行き止まりだと……!?



「ほんと馬鹿だよね…」



憎たらしい笑みを携えながらやつはクスクスと笑った。もう、この人ほんとやだ。










(ズルズルズル…)(きゃー紫帆ちゃんどうしたの!?)(…総司、せめて持ち上げてやってはどうだ)(何で僕がこんな重そうな子)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ