□■FF7

□Wish upon a Star
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「俺の故郷の村もさ。」


ふざけた様子のない声に、暴れるのをやめて耳を傾けた。


「夜はすっげぇ星だったんだ。」

「…………」


「ガキんときさ。屋根に上ったんだ。星を掴もうとして、空に手ぇ伸ばしてさ。」

「うん」


「…落ちた。」

「………」

「で、かぁちゃんに怒られた。」


「はぁ…ザックスって昔からザックスなんだな…」

変わってないな。

そういうクラウドは珍しく楽しそうに笑っていた。
初めてする、お互いの故郷の話。
なんでもないちょっとした会話。

なのに、初めて聞くザックス自身の話が、なんだか嬉しかった。

「ところでさ。」

「ん?」

「ザックスの故郷ってどこだっけ…?」

「ゴンガガ。…つか、知らねぇの!?」

ちょっとショック…などと言いながら脱力する。
そのせいでまた体重がかかる。


「あ、そうなんだ。…て、だって聞いたことないし。」

「聞いてもくれなかったんだよな…俺には興味なしってか?」

「………ふ」

目を横に流して鼻で笑う。
小憎たらしく、可愛さのかけらもない。


そんなクラウドを斜め後ろから眺めてニヤリと笑う。
まるでいたずらを思いついた子供のような。

まるで、というより実際そのとおりで…。


「うわっ…///」

チリッとした痛みに、思わず声を上げた。

ほとんど声と同時にザックスの腕から抜け出して、首筋を押さえる。
自分では見えないが、押さえた手の下には赤く鬱血した痕があった。


「なっ…何すんだっ!ザックスのバカ!!」


今自分たちを照らすものは月明かりだけなので、そんなによく見えないはずなのに、クラウドが真っ赤になっているのが分かる。



「何すんだなんて…ねぇ?」


悪びれた様子もなく、またニヤリと笑う。
あまりにも素直に反応してくれるものだから、嬉しくなってしまう。


「来るな!寄るな!」

「くくっ…」


その言葉に漏れる失笑。

笑顔でクラウドに近づこうとすると、警戒して両手を前に突き出してきた。
それがまた可愛くて笑ってしまった。

そんな反応をすればするほどザックスを喜ばせるだけだというのに。
例えるなら、猫が毛を逆立てて警戒するような。


(この辺で止めとくか…)


距離を置いたままザックスの様子を伺うクラウドに、ふ、と目を細めて微笑みベランダに出た。

春になって暖かくなってきたとはいえ、まだ夜は冷える。
夜風に薄着の身体を少し震わせて、月しか見えない空を見上げた。


「なぁ、クラウド」


「……へ?」

ザックスが離れて警戒を解いたクラウドが、少し間抜けな返事をする。
ザックスは背中を向けて、空を見上げたまま。


「今度すっげぇ、空いっっぱいの星、見に行こうな!」


そういってクラウドを振り返り、年齢より幼く見せるひとなつっこい笑顔で笑った。
楽しそうに言うザックスに、いやだなんていう必要もないし、「そうだね」と応えた。


「ただし…ザックスが変なことしないならな」

「アハハーー」

「なんだよその笑い…って放せぇーーっ」


乾いた、感情のない笑い方に顔をしかめて不審な目を向けた。
それでも油断して、クラウドはまたザックスに捕まった。


「オッケオッケ。なーんもしねぇから♪」

(たぶん…)

心の中だけで呟いて、腕から逃れようとするクラウドを逃げられないように抱きしめた。
そして、暴れるクラウドの声は開け放たれた窓から夜の静かな闇にしっかりと響いていて。



翌日ザックスが、周りに揶揄われて怒ったクラウドにしばらく無視され続けたことは言うまでもない。





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