□■HANAKISOU
□終末の希望
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君の記憶がなくなればいい。
全部、忘れてしまえばいい。
誰かを傷つけてまで生きるのはもう嫌だと、命を絶つ為、自ら傷つき倒れた玄冬の傍らで、ずっとそう囁いていた。
この声が、想いが、どうか未だ目覚めぬ君の心の深奥に届くように。
何度も、何度も。
どれだけ否定したくとも、どんなに違ってほしいと願ってもやはり君は"玄冬"なのだと。
――そう、解っていたはずなのに。
世界を救えるのは僕しかいないのだと、僕が君を殺すこと以外にはないのだと、再認識させるように徐々に自己治癒していくその身体を抱き締める。
怖くて仕方がなかった。
眼を覚ましたらきっとまた俺を殺せと言うのかと思ったら、また命を絶とうとするのかと思ったら、どうしようもなく怖くて。
玄冬が自らを手に掛けたその時の光景が、脳裏に焼き付いて離れなくて。
もうどうしたらいいのか解らなくて、ただひたすら忘れてしまえばいいと繰り返す。
「…今度こそ君を守るから、だから…お願いだから――」
君が目覚めた時、僕はなんて声を掛けたらいいのだろう。
寒さからではなく震える手をぎゅ、と握りしめて。
泣いてしまいそうなのを必死で堪えて、縋るように腕の中の玄冬を抱き締めた。
「…くろと」
“玄冬”、救世主、降り続ける雪の意味、この世界の理すべて……
君を苦しめることしかしない記憶なんて本当に、全部忘れてしまえばいい――
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