□■GIFT

□holly
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「……えーっと、三番街のバゲット二本と、ウールスターのマーマレード、卵二ダース、ラム肉八百グラム、新しい電球とアルミ箔、ゴミ袋…で、終わりだな」
「…うん、これで全部だ」

ザックスが片手に抱えた紙袋の中身を読み上げると、隣にいたクラウドは手に持つメモを確認してそう答えた。幾つもの折り癖がついたそれには、細かい字で今日購入する予定の食べ物や雑貨がびっしりと書いてある。実際、クラウドの白い腕の一本は、ザックスに負けず劣らずな質量の紙袋で塞がれていた。

「よし、それじゃあ帰るか」

器用に空いた片手でメモを畳んでいると、年上の相棒は笑って紙袋を担ぎ直した。口を開く度、白い息が精悍な顔の周りを舞う。


スラムの冬は特に寒い。
無論季節的なものもあるが、それ以上に「上」―ミッドガルで人々が何の遠慮も無く暖房を乱用しているのが主な原因だ。暖房によって温度を奪われた空気は冷風に様変わりし、通気孔を直接通ってスラムに下りてくる。通気孔を延長してミッドガルの外に風を送るなりなんなりすればいいと思うが、生憎そんな事に金をかけていられる程、スラムの経済は安定していない。

十一月下旬で最高気温三度。本当に此処は四季のある温帯なのか疑いたくなる。


二人して大通りを歩いていると、ザックスの目に或るものが留まった。

「お、もうクリスマスか」

夜になると開かれる市場で売られる品物の中に、ちらほらと混じる赤と緑のコントラスト。雪だるまの置物やデスク用のミニツリーにオーナメント、何やら奇声を発しながらガシガシと歩くサンタクロースの人形を作った奴は、ほぼ間違いなく「ウケ」と言うものを誤解している。

「そろそろ、オレ達の事務所もクリスマス仕様にする?」
「この前ハロウィンにしたばかりじゃないか」

足を止めない程度に店を眺めていたザックスがクラウドの顔を覗き込む。と、白皙の美貌が苦笑するのが見えた。
本当に、つい先日まであの新築の事務所はオレンジと黒に彩られていた。クラウドもハロウィンは嫌いでは無かったのでザックスの「お楽しみ」を黙認はしていたが、十月三一日の当日に仮装しようという提案は、流石に丁重に断らせて頂いた。

「いいだろ?季節感は大事に、ってな」
「何だよそれ」

二十三になった今でも昔と変わらない明るい笑顔に、クラウドもつられて笑みを返した。


二人の営む「何でも屋」の事務所兼自宅は、今歩いている五番街スラムより少し離れた場所にある。数あるスラムの中でも治安が比較的良い事で有名だが、流石に日暮れ時にもなると人影も少なくなるというもので。
大通りのすぐ横に繋がる道を歩いていても、二人以外に歩行者は見当たらなかった。

と、突然ザックスの様子がそわそわしたものに変わる。

「ゴメンクラ、なんか、ちょっと…」
「え?」
「今日一日人の間歩いてずっと我慢してたから。な?いいだろ?」
「家までは無理なのか?」
「ムリ!」

即答。ガタイは良い癖に、この男には「堪え性」というものが無い様に思える。

「全く…」

仕方がないなと言ってやると、見えない尻尾を嬉しそうに振ったザックスに空いた手を掴まれる。少しもしない内に、近くの狭い路地へと連れて行かれた。

卵を割らない程度に紙袋を地面に置く。同時に響く空気の焼ける音。

クラウドが立ち上がると、直ぐ横では壁に身を預けたザックス。その節張った長い指先で小さな炎を操っていた。炎は紫煙をたなびかせ、薄い唇の眼前で止まる。

「…そんなに煙草っていいのか?」

クラウドには決して分からぬ嗜好だった。
軍にいる時から思ってはいたが、何故身体に悪いものをわざわざ取り込むのだろう。
それを言うなら酒やら怪しいサプリメントやら悪影響を及ぼすものなら幾らでも挙げられるが、恐らく煙草はその中で最も不必要。

「いいって言うか……習慣になってるからな」

一通りの煙を肺に循環させ、残りを吐き出すザックス。逆に無いと落ち着かない、と言って苦笑した。



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