駄文〜グラビ・テニプリ〜
□結婚願望
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「中野さんは、ご結婚されましたが、新婚生活はいかがですか?」
「超幸せです!!」
笑顔でマイクを向けている新人女子アナに、浩司は有頂天気分で答えた。
おそらく残りのメンバーにも浩司の色ボケの被害はくるわけだが…
「この色ボケ方は、新堂さん並みにヒドいですよ」
藤崎はカメラ視線を外して愁一に耳打ちした。
「オレはあんなに、ヒドくない!」
愁一は日頃の自分の態度を思い出して、恥ずかしくなった。
「所で、新堂さんと藤崎さんは、結婚願望っておありですか?」
「……え?」
スタジオ中の空気が重くなる。
女子アナは、マズい質問をしてしまったと、焦った。
愁一は新人の彼女の失態を救おうと、彼女の質問に笑顔で答えた。
「あ、ありますよ!あるに決まってるじゃないですかぁ♪なぁ、藤崎」
「え?ぇえ!ありますよ。目指すは幸せな家庭ですからねっ、新堂さん」
「だよな!はっははは…」
生放送を笑って流せる彼らに、スタジオの雰囲気は救われた。
「すいませんでした!」
生放送も終了し、楽屋で3人が休んでいると、さっきの新人女子アナが謝りにやってきた。
「いいよ、気にしてないから!」
愁一は優しい笑顔で答えた。
「新人なんでしょ?これからも頑張ってね♪」
愁一は軽く彼女の肩を叩いて、見送る。
「本当にすいませんでした」
彼女は最後の最後まで頭を下げ、部屋を出た。
「ちゃんとした、新人さんですね」
藤崎がパソコンをカチャカチャと弄りながら言った。
浩司は携帯電話を片手に「そうだな」と呟き、愁一を見た。
「結婚願望…オレには遠い話だよな」
苦笑いをもらす愁一に2人とも居たたまれない気分だ。
さっきの新人アナも、まだまだ新人とだけあって、愁一の配慮の気持ちがなかった。
結婚したくても、今の日本では無理な話。
愁一には酷な話だったのだ。
「…結婚してぇ」
どんなに毎日が幸せでも、気が付いた時は、現実の壁に溜め息がでる。
「由貴も、本当は結婚願望あんのかなぁ?」
「どうでしょうね?瑛里さんは結婚とか、どうでも良さそうですから」
ガチャ
「ただいま〜」
愁一は疲れた体をリビングのソファーに投げ出した。
「由貴〜?」
寂しげに恋人の名前を読んでみたが返事がない。
「病院?って、こんな時間じゃ病院じゃないか…」
ガチャ
玄関の開く音。
愁一はソファーから起き上がって、玄関に急ぐ。
「由貴?おかえり」
「ぁあ…帰ってたのか」
「うん。どこいってたの?」
瑛里はリビングに行き、ソファーに座って、愁一を真っ直ぐに見た。
「なに?」
「役所行ってきた」
ぶっきらぼうに瑛里は告げる。
「?」
訳がわからないと言った顔をする愁一に、瑛里は1枚の紙を押し付けた。
「これって…婚姻…届…?」
「それが婚姻届以外の何に見えるんだ?」
愁一は更に訳のわからないと言った顔になった。
「なんで?」
「テレビ見た」
「へ?ぁ、え、あれは…」
瑛里は顔を愁一から背けて言う。
「お前が望なら…それ書いて、役所に出して…一緒に笑われてやっても良いぞ…」
「由貴…」
「いまだけならな」
瑛里はテレビに映る愁一に思ったのだ。
『お前となら、大丈夫。ずっと一緒でも…お前と一生を共にしても。俺が結婚願望を持てるのは、お前だけなんだ』と。
「出しちゃおうか?名前書いて…」
愁一はニコッと笑い、瑛里に抱き付く。
瑛里はソッと愁一の頭を撫でた。
「係員に怒られるかもな」
「怒られるのも、笑われるのも、2人なら良いんでしょ」
「…ああ、今だけなら」
END...