駄文〜グラビ・テニプリ〜

□限界が来たら…
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ガチャ…

「……」

「おかえり由貴vV」

「…ただいま」

瑛里は玄関に入ってすぐ、冷や汗が出るのを感じた。
なぜなら、今し方までの己の行動と、恋人の愁一の笑顔が痛いくらいに恐ろしく感じたからだ。

「由貴、あんた今まで、どこ…行ってたんだ?あ?言えよ」

愁一は笑っている。
だが、声は全く…笑っていない。

「か、関係ねぇだろ」

「関係ねぇだと〜!?あんたの浮気、毎回毎回許してきたけど、もう無理!」

一体、どこでバレたのかと瑛里は頭を巡らせた。
だが浮気で怒り狂う愁一なんか見慣れたもの。
瑛里は妙な冷や汗を感じながらも、どこか余裕があった。
愁一は、笑顔はなくなったものの、至って冷静なようだった。

「もう今日が限界だったみたい…」

愁一が呆れたように言った。

「あ?」

瑛里は分かっていなかった。
怒りを感じた時、我を忘れるくらい怒る人間が、冷静に怒った時は、もうキレていると言うことに…。

「キスしようが、浮気しようが俺の勝手だろぅが」

言ってしまった由貴瑛里。

ドスっ…

鈍い音を立てて床に落とされたのは、荷物の多く入った…旅行バックと、ダンボール箱。

「…出ていくのか?」

「そうだよ」

瑛里はまだ余裕だった。
自分が浮気して、愁一が『出て行くからなっ!』と、言うことは決して珍しいことではないからだ。
だが、次の言葉に瑛里はようやく現状が読めた。

「由貴が」

「………は?」

愁一は床の荷物を持ち上げて、玄関の外にその荷物を投げ出した。

ドスっ…
ガシャンッ…

「出ていけよ?」

愁一は瑛里を外へ押し出すと鍵を掛けた。

「なっ!?クソガキ!おい!開けろ!」

ドンドンっ!

「おーい!愁一!新堂く〜ん!!」

瑛里は気がついた。
愁一が限界を超えて、怒ったのだと。

「に、荷物」

瑛里が荷物の中を確認する。
中には、パソコンや歯ブラシ、メガネに、服、下着。
瑛里の生活用品と呼べる物は全て入っていた。

「ほ、本気で出しやがった…」





「ふぅ〜」

愁一が1人ため息をついた時。

♪〜♪〜

携帯が鳴った。
わざわざ画面を見なくたって追い出した恋人だと分かる。
というか、恋人を追い出してから、すでに100回目以上の着信だった。

♪〜♪〜

「もう懲りたかな?」

愁一はにこやかな笑顔を向けて携帯に触った。

ピッ…

「……なに?」

『あ、愁一か?』

「オレじゃなかったら、誰に電話してるわけ?」

今日という今日は容赦しないと決めている愁一だ。

『……開けてくれ』

「は?まだ玄関前にいたの?」

『……』

「もう次の女の所に行ったかと思った」

『愁一…』

「何だよ」

『許してくれ』


「……もう良いよ」

その一言に安堵した瑛里。

「オレはもう許すとか許さないとか関係ないんだからさっ」

瑛里は、つかの間の安堵。
愁一は最早、楽しんでいた。

『……』

そう来たか、と瑛里は眉をひそめた。

「何?何か文句あんの?」

『どうしたら許してくれる?』

「許す?オレが由貴を?許せると思ってんのかよ?」

『……許してほしい』

「……」

『愁一、許してほしいんだ』

「……」

ピッ

愁一は電話を切った。
瑛里は切られたことを不安に思う。
こんな時、どう動けば良いのか分からない瑛里だ。
頭を抱えて、浮気の事を考えた。
あれは瑛里にとっては久々の浮気だった。
愁一は瑛里が女と酒を飲んだだけでも「浮気」と言うが、瑛里にしてみれば「遊び」。
だが、今日は愁一にとっても瑛里にとっても「浮気」だったのだ。

「情けねぇな…」



 
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