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□insensibility!
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その視線は朝練から始まり、夜の部活で終わる。
片時も離れない視線に水谷自身、痛いほど気づいていた。
何故気づいた?と聞かれれば彼は容易に答えるだろう。
?だって俺も見てるんだもん?
なるほど、ことは単純だったらしい。
−−−insensibility!−−−
「阿部ってさぁ、鈍感だよね」
ぴくり。
阿部の耳が小さく反応した。
放課後の教室。試験近く。二人っきり。
することと言えば、ただ一つ。
勉強。
問題集に向いていた視線がゆっくりと離れて、俺に移った。
「あ゛?」
低い声は明らかに機嫌を損ねている。
可愛いたれ目が俺を睨む。
そんな阿部の鋭い目はどっかのヤクザみたいだ。
俺が三橋なら即、後ろにダッシュだ。
けどそんなことより、
「へへ、やっとこっち向いた」
「はぁ?何が」
「疲れない?そんな勉強ばっかして」
「はっ倒すぞこの野郎」
「きゃー、犯されるーッ」
「……みーずーたーにー」
「うそうそ、髪ひっぱんないで」
地味に痛いです、センセー。
もう、朝練とか授業中はあんなに可愛いのに。
しかも今は二人っきりっていうサイコーのシュチュエーションなのに。
いつもと態度変わらないなんて、サイコーつまんない。
……でも怒る阿部に逆らえない自分。情けない!
「ったく、真面目にやれバカ」
「…………」
ひっぱられたせいで鈍い痛みがはしる頭を優しく撫でる。
撫でながら、じっと阿部を見る。
「……何だよ」
「阿部ってほんと鈍感」
ガタリ、阿部の鋭い視線から逃げ、席から立つ。
「み、ず…た……んッ」
再びシャーペンを握ろうとする手を掴んで、いきなり立った俺に驚いた阿部は必然的に上を向く。
反射的行動を利用してキスをした。
「……鈍感」
一日中俺のこと見て、少し俺が近づけば妙に煙たがって、二人っきりになれば無口になって俺のこと見ようともしない。
おまけに、キスしちゃえば真っ赤になって眉が目と同じくらいタレるくせに。
「んんッ、ン…ふ、ぁ…」
ゆっくり、名残惜しそうに唇から離れる。
視線の定まらない目は涙を滲ませて俺を見つめる。
俺は笑って呟いた。
「俺も阿部のこと好きって気づいてた?」
ね、いつまで片思い気取りするつもり?