「おい遊星ーぇー」
足元のジャンクを靴の裏で転がしながらクロウは遊星の背に声をかけた。
「もぉー帰ろーぜーぇー」
「ダメだ」
夕闇が迫る中、遊星は振り返る事なく即答で拒否し、擦り傷だらけになった小さな掌で、尚も鉄屑を引っくり返す。
「ジャックが泣いてるからダメだ」
「は?アイツがいつ泣いてたんだよ?」
クロウは目を丸くする。
「ひもが切れて、首からさげてた指輪をおっことした時だ」
「……全然泣いてなかったぞ。それどころか、すぐにさがしてやろうとした俺たちにどなったじゃねーか?『余計なことをするな!』って」
「でも泣いていたんだ」
「いやぜってえ泣いてなかったぜ!『必要がなくなったモノは無くなるんだ!』ってキレて一人で帰っちまったし!」
「今も泣いてる」
「…………あークソッ!」
噛み合わない会話にも、空腹にも、暗がりにも寒さにも、自分と遊星の見えていたモノの違いにも、全てにイライラしたクロウは、ジャンクを引っくり返し、その中に転がって行った筈の―――たったひとつの指輪を探した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
廃墟となった元劇場―――月明かりの射し込むステージ中央に放置されたままの玉座。
其所で、ジャックは体を丸める様に膝を抱えて顔を伏せていた。
眠っているのだろうか?
静かに、それでも潜める事の無い複数の足音にも、ジャックは何の反応も示さなかった。
「ジャック、帰ろう。風邪をひくぞ」
遊星の声に、ジャックは顔を上げた。
泣き腫らした目と濡れた頬を見たクロウは、動けなくなり、言いたかった文句も出てこない。
「これ」
「いらない…」
言葉とは裏腹に……、
包帯を巻かれた手で遊星が目の前に差し出した指輪に、ジャックは震える手を伸ばした。
「いらないんだ!…無くなるモノは必要がなくなったものだからいらないッ…!」
指輪を両手で握り締め、大粒の涙を流し再びうつ向くジャックの顔を、遊星は下から覗き込む。
「でも、この指輪は見つかった。きっとまだジャックにとって『必要』なんだ」
「ふぅ…ッ…いらないッいらないんだ…こんなものッ…」
それでもしっかりと指輪を握り締めたまま、腕で何度も顔を拭うジャックの柔らかな髪を、マーサは、そっと…撫でた。
「今度はもう、なくすんじゃないよ?」
暖かな声に、
ジャックは、
微かに頷いた。
「さあ、皆帰るよ」
完
あとがき
子供時代からサテライトを出るまでの期間、ジャックが首からさげてたアクセが、指輪に見えた目の悪い岡嘉の妄想でした(^-^)/
シティ時代からはもう着けて無いんデスよね?なくしたのかな?
誰から貰ったものかは……年内中に裏別館に書きたいと思います(遅ッ)
27000打ありがとうございました!