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□心乱すのは君
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ざあざあざあ。
ああこれはひどい雨だなあ。グラウンドはぬかるんでいるし、横殴りにたたきつける雨のせいで前方の景色すら少し危うい。
そう思いながら昇降口でふう、と一息。
横を通り過ぎていくのは細い脚がうらやましい可愛い女の子たち。
私の視線に気づいたのか、彼女たちは花柄や水玉がプリントされた傘を広げて、ばいばい銀朱ーと手を振った。

さようなら。

にっこりと笑んで手を振り返すと、きゃあきゃあと声をあげながら女の子たちは雨の中へ消えていく。

「銀朱さん帰らないのー?」

はっと横から掛けられた声に、私は首を振り向かせると。
可愛い生徒会の後輩が大きな目で私を見つめていた。

「いえ、どうやったら濡れないで帰れるかなあ、と」
「あー、濡れるの嫌だもんね!でも無理じゃない?」
「そうですねえ」

私と一緒になって昇降口から外を見上げる後輩の可愛さったら、私の妹と同じくらい。
時に、六合さん傘は?
後輩の手には相変わらず薄っぺらいカバンだけ。どうやって帰るつもりなのだろうと私が首をかしげたのに気づいたのか、彼はにっこりと笑ってもうすぐ来ます。と言った。

「おいこら鴇!プリントくらいてめえで持ってけ!」

なるほど。
彼の言った、もうすぐ来る、とはどうやら我らが副会長様のことだったようだ。

「いやー机に置いておいただけなのに行ってくれるなんて、篠ノ女やっさしー!」
「これ見よがしに俺の机に置いてんじゃねえ!!」

あとでマック奢らせてやると呟きながら、副会長様が傘立てから抜き出したのは、大きな黒い傘。
ああ、六合さん小さいですもんねえ。それくらいのサイズなら入るんでしょう。
というより多分、副会長にくっついて帰るから実質傘は一人分のスペースしかとらないのだろう、と考えて、篠ノ女も大変だなあと苦笑する。

「じゃ、銀朱さんさようならー」
「明日の会議は出てくれよ会長サン。じゃーな」
「はいはい篠ノ女。六合さん、さようなら」

パン!と開いた傘に潜り込んだ篠ノ女の腕に濡れるーと言って六合さんが入り込む。(ホントにそうやって帰るんですか)
すぐに見えなくなった二人の背中を見つめて、私はまたふうと息をついた。

彼は、もう帰ってしまったのだろうか。
でも下駄箱を確認したら、まだ下履きはあったはずだから校舎内にはいると思うのに。

(ああなんていじらしいんでしょうね)

傘を持っていないふりをして
きっと彼がそれを見過ごすはずはなくて
しょうがないと言いながらその傘へ招き入れてくれることを期待して
ここで、ずっと待っているなんて。

ちら、と見上げた時計は、もう5時を回った。
HRの終わった4時から1時間も経っていたのだと、急に感じた時間の速さになんだかばかばかしくなってくる。

大体なんで、私がこんな
こんなふうに待っていなければ。

考えるほど腹が立って、むうと頬をふくらませた私は手近にあった傘立てから1本ひょいと抜き出した。
何も考えず、パン!と傘を開いて荒れ模様の中へと身を投じ行く。

(梵天はどうせ、白緑さんにでも送ってもらうんでしょう!)

理事長の親戚だか知らないが、彼は優遇されすぎだ。
その事実も加わって私の歩く速度はぐんぐんと上がっていく。
と。

「…ん?」

陰る色がいつもと違うのに気がついた。
真朱とお揃いのようにして、私の傘は淡いピンク色だった気がするのに。
今気付くとそれは、濃く蒼く、それでいて見覚えのある傘。

「…あ…!!」

しまった。
そう云えば私の待っていた下駄箱は2年生の下駄箱だ。
運がいいのか悪いのか分からないが、これは梵天の傘だ。一度見たことがある。(あと少し黄みがかっている)(これは、彼の従弟が絵の具をこぼしたからだと言っていたから、間違いない)

どうしようどうしよう。返さなければ。
もし万が一、億が一、彼が歩いて帰るのだとしたら。
傘がないと困ってしまう。こんな荒れた空の下を、歩かせてはダメだ。

くるりと踵を返し、ずり落ちそうになるカバンを支えて私は駆け足で学校へ戻る。
お願いです待っていて、行かないで、待っていて。

バシャバシャとズボンに雨が跳ね返るのも気にせず、私は息を切らせて校門から昇降口を見る。


ああ。


雨なのか涙なのかでかすんだ視界に。
鮮やかな金色をした彼が、いてくれた。










「…人の傘持ってくなんて、いい度胸だね」
「すみません…」
「まったく、もう少し遅かったら濡れて帰るとこだったんだけど?」
「う、はい…」
「…で?」
「はい?」
「君は傘がないから、俺の傘を奪っていったわけ?」
「え、あ、あの」
「しょうがない奴だね。…どうせだし、入っていけば」
「・・・・・・・・・」
「ちょっと!何その顔」
「いえ、あの…いい、んですか?」
「いいも悪いもどっちみち君の家同じ方向だろ。わざわざ傘を返しにきた君が濡れて帰って、風邪をひかれでもしたら後味悪い」
「・・・・・・・・・」
「どうするんだい、銀朱」
「は、入ります入りますありがとうございます梵天!!」







(ごめんね真朱傘は置いていきます)
あいにく傘は一本しか持ってない(から仕方なく、と彼は言うけれど)
(こんなチャンスもうないかもしれない!)





おしまい。

あれ、梵銀?(・ω・` )
はーとぶれいかーの「どうしよう返さなきゃ!」のフレーズが好きで片思いはあはあってしてたら出来たお話。

梵天も、ほんとは銀朱さん傘持ってるの気付いてたけど、自分が一緒に帰りたかったからっていう裏設定があったりなかったり。


Thanks song!>>supercell 「ハートブレイカー」
お題拝借先>>確かに恋だった


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